自動車産業関連の本の紹介(2002年T)


『トヨタはいかにして「最強の社員」をつくったか』  片山 修著  2002年4月20日
祥伝社  1600円+税


 序 章  「積み上げた10年」が今のトヨタの強さをつくった 
 第1章  どうやってホワイトカラーの生産性をあげるか 
 第2章  「社員の意識低下」なき賃金制度改革 
 第3章  モノづくりを支える技能員四万人の意識改革 
 第4章  いかにして二〇代・三〇代の若手社員を「プロ」に育てるか 
 第5章  トヨタを動かしてきた「危機感」 
 第6章  トヨタ生産システムの人材開発への応用 
 第7章  一〇年にわたる亀の人事改革 
 第8章  人事部はなぜ本音をキャッチできるのか 
 終 章  人のグローバル化がこれからの戦略課題 

 私はいつも思っているのだが、生産部門や販売部門だけがおかしくなっても企業は倒産するとは限らない。 しかし、人事部門がおかしくなった企業は間違いなく破綻してしまうだろうと。
 人事とは企業の縮図でもある。トヨタ自動車が高業績を上げているのは、その人事制度の優秀さに由来している。

 この10年のトヨタ自動車の人事制度改革は、日本のモータリゼーションに伴って大量採用した団塊の世代の処遇という後ろ向きの対策と、グローバル化という環境変化にいち早く対応したものである。 つまり、団塊の世代が管理職になることで、実務戦力が低下してきた。 組織のフラット化によって、係長と課長の椅子がなくなり、みんみが黒鉛筆を持って実務をこなさなくなければならなくなったのである。
 長にすれば遊ぶと言われた生産現場の監督者である組長さんを、実作業をするシニアエキスパート級に変えようという発想です。 ホワイトカラーも技能系職場においても、いかにモチベーションを下げず、実務・作業をやってもらうかが改革の大きな課題でした。

 1992年に今までの基本理念であった「豊田綱領」から脱皮し、新しい「基本理念」が策定された。
 トヨタの強さは過去の清算としてのみの人事改革を行なわず、グローバル化の中で従業員と企業の関係の大逆転を図ったことに示されている。 それは亀に譬えられるほどゆっくりと、しかも確実に従業員と企業の共通のビジョンのもと、従業員の意識改革を深化させていった。
 日頃、何気なく使っている経験知に基づく手法、あえて言葉にして語られることのないトヨタ的常識、行動の前提になっている了解事項などの言語化に取り組み、2001年4月に「トヨタウェイ2001」として纏められた。 「トヨタウェイ2001」は14ページの冊子で、「知恵と改善」と「人間性尊重」が2本の柱となっている。
 国内のトヨタであれば、先輩の背中を見ながら、あるいは臭いを嗅ぎながらやってきていますので、トヨタウェイのなかで、伝わるものはきちんと伝わるし、また伝わってきたとおもうんです。 ところが、日本国内のそうした以心伝心のやり方が、海外でも通用するかといえば、否ですよね。
 海外においても、トヨタの考え方を理解してもらうためには、先輩の背中や、臭いがなかろうと、トヨタウェイが伝わるように明文化する必要がある。 しかしながら、いざ、トヨタウェイを言葉にしようとしても、なかなかできない。 というのは、トヨタウェイは、トヨタの社内において、空気になっているからなんですね」
 日野三十四氏が「トヨタ経営システムの研究」のなかで、「トヨタは、世の中に“下の下”の企業があることを知らないために、トヨタの発想は“中の下”から始まる。 だから、トヨタの提案する方法は、一般の企業にとっては最初から距離がありすぎてついていくことができないことがある。」
 特に負け組み企業がトヨタのマネをすると、制度改革に始終し、前より事態が悪化する結果になる。

 これまでのサラリーマンは、組織において自分がどう映るか、組織のなかでいかに評価されるかに心目を砕いてきた。 象徴的なのが“つきあい残業”だ。自分の仕事が終わっても、なお、集団の和のために会社に居残る。 仕事のためではなく、あくまでも組織のためである。 サラリーマンは、集団の和を乱さぬために、あるいは仲間はずれにされぬために“サラリーマンごっこ”や“仲良しごっこ”に明け暮れた。 仕事以外のことに気を遣うあまり、仕事が二の次になることさえあった。
 ホワイトカラーに対しては、下記のような改革が行なわれた。
 トヨタは、ホワイトカラーの現場改革について87年から検討を進め、88年以降、じつは、3度にわたる事務部門の業務改革に取り組んでいるのだ。(166ページ『トヨタの方式』)
 88年秋・・・・「ハンコ三つ運動」
 89年8月・・・「組織のフラット化」
 90年4月・・・「賃金制度改革」(重点テーマの登録制度)
 90年9月・・・「役員のフラット化」  93年6月・・・「ビジネス・リフォーム(BR)」(業務改革)
 96年・・・・・「チャレンジプログラム」(「資格呼称」と「賃金等級」)
 99年・・・・・「プロ人材開発プログラム」

 このほか、トヨタは、89年に英国工場の「要員社内公募」の実施、「新規事業への社内公募」、「チャレンジローテーション」などを行なった。 従業員の能力や経験が立つ場を見つけだし、活躍の場を提供するとともに、従業員のチャレンジ意欲の喚起、組織の活性化を促した。

 一方、技能員に求められる能力は、「総合的モノづくり能力」という。 「総合的モノづくり能力」は、「実作業能力=ハンドスキル」、「仕組みをつくる能力=問題解決能力」、そして「人をつくる能力」の3つの力の総称である。 一例をあげると、塗装工程は、経験やコツがモノをいう。 むろん、工程の作業を100%の要求水準でこなすことができる人は、高度な能力を持つと見なしていい。 しかしながら、トヨタでは、作業をこなすだけでなく、改善アイデアを出したり、作業の標準化ができるようにならなければ、一人前の技能員として認められないのである。
 これだけでなく、自らの技能を、すなわち「暗黙知」を形式化、標準化して、後輩や部下などに伝達するとともに、彼らを育成できる力が必須となる。

 「専門技能修得制度」では、組立、鋳造、塗装、溶接といった製造上の職種ごとに、専門的な技能を定義し、そのレベルをA級、B級、C級の三段階に規定、従業員の習得した「技能」を評価したうえで、レベルに合わせて「級」の認定を行なう。

 95年・・・・・「いきいき委員会」を発足
 97年・・・・・「いきいきアクションプログラム」(意識改革)
 99年3月・・・「技能系新人事制度」

 また、トヨタは、経営全般については副社長以上、部門統括については専務、組織については常務と取締役と権限を定めなおし、「役員のフラット化」を行なった。 これは、スピード時代に対応するための権限委とともに、縦割り組織の打破を意味した。

 2001年6年の役員改選で9人の副社長が誕生した。 いってみれば、この9人による副社長会が実質的に取締役会を形成し、残りの取締役が執行役員を構成する形になった。 これは形を買えた執行役員制を取り入れたのではなかろうか。


『トヨタはどこまで強いのか』 日経ビジネス編 2002年4月20日
日経BP社 1400円+税


 第1章  五つのキーワードで明かす「強さ」
 第2章  継承される不屈の遺伝子 
 第3章  次世代技術を制する方程式 
 第4章  一歩先を行くマーケッティング 
 終章   張社長が語るトヨタの未来 

 この本は、日経ビジネス2002年1月7日号特集をもとにして作られた。 第1章と第2章が、いわゆる“トヨタのDNA”とか“トヨタウェー”と呼ばれるオペレーションレベルのマネジメントの強さについて書かれている。 内容はトヨタ生産方式について書かれている。参考までに5つのキーワードは以下である。

   血判共同経営体 − 防衛のための「資本の論理」
   異物咀嚼経営  − いいものは何でも取り込む
   合理偏執狂経営 − 全社員が“問題解決中毒”
   人守人活経営  − 人に始まり人に終わる
   危機伝承経営  − 社名から自動車が消える日

 第3章、第4章は、戦略的レベルのマネジメントについて書いてある。ハイブリットカーやITSの他に、自動車工場でタイヤ生産を狙っている話が載っている。 自動車工場でのタイヤ生産の話は、タイヤ業界では有名な話だという。 トヨタの強さは、単に生産管理のみの強さでなく、新素材や新製法が出てきた場合にもちまえの粘り強さで実用にごぎつけるという技術力の強さも忘れてはならない。
 また、時代の先を行くマーケティング力も忘れてはならない。 これから成長が期待されているスモールカーでヴィッツで先陣を切った戦略力も評価されるべきであろう。


『トヨタはなぜ強いか』(自然生命システム経営の真髄) H・トーマス・ジョンソン、アンデルス・ブルムズ著
 2002年4月15日  日本経済新聞社 2200円+税


 序 章  新しい思考システムに向けて 
 第1章  ルージュ工場の教訓 
 第2章  関係性(MBM)対 定量性(MBR) 
 第3章  注文に応じて生産する 
 第4章  注文に応じて設計する 
 第5章  注文に応じて評価する 
 第6章  結果は細部に宿る 
 第7章  自然なものが強くなる 

 本書の中心となるテーマは、「宇宙における自然システムの働きを導く原理に則して事業を営む企業に生じる、測り知れない利益」である。
 具体的には、「自己組織化」「相互依存性」「簡単な手段から生み出される多様性」の3つです。  「自己組織化」は野中郁次郎氏の書かれた「知識創造企業」に代表される考えです。 組織が目的を持って自発的に活動する時、組織が目的に合わせて自己発展することを言う。 例えば、従業員はつねに異常な状態と正常な状態の識別がつき、異常が生じたらその是正のための調整ができる。

 「相互依存性」とは、組織の中の一部ではあるのだが、全体と調和をとって個が全体を構成している状態を現す。 例えばくらげの場合、複数の固体が集まってひとつのくらげとなっているが、それぞれの固体は全体と調和のとれた形で機能を特化させている。 「相互依存性」で重視しているのは、企業と顧客との関係である。 顧客と企業の間の関係性を育てて、収益性の向上につなげることができる。

 「簡単な手段から生み出される多様性」の代表てきなものは、遺伝子であるDNAではないでしょうか。 4つのアミノ酸から無限の組み合わせを生み出している。
 トヨタ自動車は「モノづくりの革新」で、スカニアは「モジュール生産」で自然システムの働きを導く原理を利用した。

 トヨタ生産方式にある「切れ目のない流れ」は、第二次世界大戦の前に豊田喜一郎氏がフォードのリバー・ルージュ工場で知った方法であろう。 フォードを初めとしたビッグ3とトヨタ自動車の違いは、T型フォードの単一車種生産から、多品種生産に移行した時に起こった。 ビッグ3は大量生産型の思考にこだわり続けた。 「中断なく作業を行なうこと」や「生産能力を目いっぱい使ったフル操業」が必ずしも容易に実現できなかった。

 一方、トヨタ自動車は「注文に応じた生産」と「切れ目のない流れ」を維持するため、設備の切替えに要する総合計時間を削減しようとした。 具体的には、プロセスを細分化して、一度にひとつの注文をこなすのに必要な割合だけ経営資源を使う切れ目のない流れを組織化した。
 切れ目のない作業の流れのなかで各作業が同じペースで進行すれば、それぞれの作業は、完成に向けて工程を一歩進めるごとに顧客の注文に応じるのに必要な経営資源を消費するだけですむ。 この場合、各作業工程の総数、各ステップごとに工程設計された作業内容、製品設計、原材料などの投入価格、各ステップで作業が間違いなく実行されることなどを前提とすれば、産出される製品量に対してコストは考えられる最低水準まで下がるのである。
 この2つの方法で最も異なる点は、製品の販売に対するリスクの点である。 トヨタ生産方式は、売れた商品、売れる商品を生産するので販売に対するリスクは少ない。 しかし、管理コストの増加を大量生産と生産スピードアップで対処しようとすると、販売のリスクは増大する。 財務上の数字を変えることを目的に人員等を削減する経営を『結果による経営』といって、否定される経営方法と考えている。
 統計学者でマネジメントの革新者でもあるエドワーズ・デミング(W.Edwards Deming)は、「管理者が量的目標を設定し、また従業員の仕事を目標達成に合わせようとするならば、彼らはたとえ企業を破壊してでも、その目標を達成しようとするだろう」とよく語ったものである。(10ページ)
 以前に、アメリカ日産のスマーナ工場は生産性1位の名誉を受ける一方で、販売部門は大量の在庫を抱え、値引き販売で在庫を減らすことに苦労していた。
 これは現在の財務会計の欠点でもある。生産された部品、仕掛かり品、製品は原価で評価される。 それらの製品が生産された時点で、将来において多大な在庫費用を必要とし、大幅な値引き販売が必要であっても、評価損を計上することはない。 良いのは生産性という数字だけで、企業収益は悲惨な状況になり、販売部門は在庫車の処分という後ろ向きの仕事で手いっぱいになる。

 トヨタ生産方式は、「切れ目のない流れのなかで各ステップのバランスをとることが経営資源の節約につながる」ことを実践するためにムダを省いていった。 つまり、多様性のコストの増加を問題解決できる人を育て、問題をひとつひとつ解決し、プロセスを洗練していったのである。 これは『手段による経営』と呼び、日産自動車のカルロス・ゴーン社長もプロセス重視の経営といって、同様なことを目指している。
 実際、原材料、人、その他の経営資源の効率的で有効な利用は、(会計システムではなく)工場内の全員が、切れ目のない流れという環境の中でTPSのやり方にいかに習熟し、それを適用するかにかかっている。 ある期間における生産に必要とされる原材料と労働力を費消して計画どおりの台数と種類を生産したとすると、完成品の原価もまた計画どおりになる。 この期間に編集されたいかなる会計情報も、工場の管理者や作業者がその結果を達成したり改善したりするのを支援することはできない。 適正原価を保証する唯一の条件は、TPSを習得し保持することである。 すなわち、あらゆる作業ステップを設定されたタクトタイムによって遂行すること、標準作業手順を遵守すること、異常な状態を認識し、異常発生の際は作業を止めてそれを是正すること、 顧客注文にのみ対応して作業すること、クルマの多様性には、そのシフトの中で一定間隔をもって均等に配分することで対処するなどである。 これらの事柄を正しく行なえば原価はあとからついてくる。
 スカニアはスウェーデンのトラックメーカーで、世界中で最も収益力のあるトラックメーカーで、過去65年間にわたり利益を出しつづけている。 スカニアは、革新的なモジュール式設計システムを考案した。 この唯一無二の設計システムによって、同社が世界のどのトラックメーカーよりも長期間にわたり、高いマージン率と安定した収益性を獲得している。 トヨタは、競合相手と少なくとも同じくらいの車種を大量生産並みのコストで製造するため、プロセスを洗練するという方法によった。 これに対してスカニアは、顧客の特殊なニーズにも個別に対応するトラックを設計するためのプロセスをつくり上げた。

 たとえば、世界の発展途上地域では、奥地の恐ろしくでこぼこの道路を往来する顧客には、大きなねじりと曲げを解消するフレームを持つトラックが必要とされている。 この要求を受け容れる通常の方法は、都市間のハイウェイを往来するトラックに必要とされる以上に、高度なゲージ鋼を使うことである。 それは、事実上ひとつの新しい部品番号を意味する。 しかし、スカニアでは、通常のハイウェイでの中量および重量業務用に設計したフレームですでに使っているL字型の補強材を、単に2つ「重ね合わせる」だけである。 奥地のでこぼこ道の条件に適合する特別に重いフレームを調達するために、2つの既存の部品を結合するのである。
 この本のあとがきでスカニアは、同じくスウェーデンのボルボ社に買収されたと書かれている。 しかし、この買収(合併)は行政当局の合意(独占ではない)が得られず、破綻した。 結果、ボルボが買い占めたスカニア株をVWが買取り、筆頭株主になった。 2002年、日野自動車はスカニアと資本関係のない業務提携をした。 モジュール生産を習得するためと噂されている。

 1980年代に、トヨタ生産方式はリーン生産方式として賞賛された。 トヨタ生産方式の死角は、「注文による設計」にあった。 1990年代頃より、自動車会社の課題は生産の問題から、何を作るかの開発競争に入っている。 競争の基礎体力の生産については、リーン生産方式と「注文による設計」の融合が重要性を増している。

 この本の中に「子犬のIQテスト」の話が出ているので、参考までに引用しておく。
 「枠の外に出て考える」とはどういうことなのか。犬の調教師が子犬に対して行なう「IQテスト」を例にとって考えてみよう。 このテストでは、子犬を長方形の空間に入れる。その空間の三方にはフェンスが張りめぐらされていて、子犬とその飼い主はフェンスで隔てられている。 子犬は飼い主のもとに行こうとする。問題はその方法である。 子犬の多くは、飼い主との間に立ちはだかるフェンスをみて、フェンスを飛び越えたり、吠えたりして飼い主にたどり着こうとする。 しかし、少数ではあるが、少しの間、置かれている状況を確認し、四方のうちで唯一フェンスのない側を回って、飼い主にたどり着く子犬がいる。 その違いは何なのか。認識の仕方、つまり考え方が違うのである。フェンスが「問題」だと考えてしまうと、子犬は懸命にフェンスを乗り越えようとする。 そうした子犬は「子犬IQテスト」に不合格になる。 テストに合格する子犬は、後ろに抜け道を見つけることにより、フェンスという問題を解決してしまうのだ。


『世界最高のレーシングカーをつくる』 林 義正著 2002年3月20日
光文社文庫(031) 680円+税


 第一章  レーシングカートは何か 
 第二章  デイトナ24時間耐久レース 
 第三章  レーシングエンジン設計者になるまで 
 第四章  エンジンの新技術を拓く 

 著者の林 義正氏は、日産自動車に32年間エンジン技術者として勤務したのち、東海大学の工学部で教授として内燃機関と自動車工学を教えている。 現在、大学発ベンチャーとして(株)マックスフォースの代表取締役会長も務める先進性も持っている。 この本を読むと、日産自動車にはポテンシャリティの高い社員が多く、カルロス・ゴーン氏はこれら社員のポテンシャリティをうまく成果として引き出すことができたと感心させられる。

 自動車が発明されてからわずかな期間を経て、レースが開始された。 その後、1世紀にわたってモータースポーツの歴史が刻まれていく。
 私たちの現在の乗用車は、乗り心地のよさやオーディオ、カーナビ、空調など、いろいろな付加価値が備わっている。 自動車は発明された時の『走る・曲がる・止まる』の機能を極限まで煎じ詰めていったものである。 『その極限に行き着くところの一つは戦闘機かもしれない』と著者は書いている。 『人類の生活の舞台である陸上では、レーシングカーがマンマシンシステムの極限を体現しているといえる』

 欧州では、レースとともに自動車技術と自動車文化が発達してきた。 レーシングドライバーの収入が高いとともに、その社会的な地位が高く、非常に教養が豊かである。 物量の問題でなく、文化の土壌の問題である。

 パワーを出すためにはエンジンが吸入する空気の量を増やす必要がある。 吸い込んだ空気の量で燃える燃料の量が決められ、パワーも決まってくる。 その吸い込む量を少しでも多くするために、これまで4つの方法が考えられてきた。
  1. 排気量を増やすこと
  2. エンジンの回転数を上げること
  3. 空気の慣性を動的に使って圧縮すれば体積が小さくなるという原理を利用した慣性過給
  4. ターボやスーパーチャージャーで空気の圧力を高めること

 エンジン設計で重要なことは、「目の子」で計算することであると著者は強調している。 目で見当をつけながら計算していくことを目の子勘定といい、ある程度経験に基づく数字を持っていないとできないことかもしれないが、この感覚を研ぎ澄ませておくことの重要さを強調している。
 さらにエンジン設計で大切なことは、エンジンが感性のある生き物であることを知ることである。 自分が空気になったつもり、燃料になったつもりで動きを予測する。 自分自身が圧縮されたガスになったつもりで、ここに来たのがどちらに逃げていくだろうと考えてみる。 その「気持ち」になることは、その相場値を肌で知ることでもある。

 大企業の設計部隊には、べからず集やハウツウデザインというものが存在する。 それらは単に過去の集積であって、1人1人の設計者が相場値を知っているわけではない。 その組織だけに通用する、組織に安住するための「常識」である。そこから新しい発想はでてこない。
 集積された過去の体験から「いいとこ取り」しようとする。語感が実にさもしい言葉である。 「いいとこ取り」なんてできるわけはなく、結果的に悪いところまで採ってしまう。 わかりやすい表現をするならば、いろいろな美人のパーツを集めてもけっして美人にならない、あるいは四番打者ばかり集めても優勝できないのと同じである。

 著者は日産自動車に入社して、レーシングエンジン開発、排ガス規制対策、振動対策を経験した。 振動対策では、ベアリングビームによるエンジン騒音低減で、昭和60年5月に科学技術庁長官賞という名誉に浴した。 その後、再びレーシング開発に取り組み1992年のデイトナ24では優勝に輝いた。 その帰りの飛行機の中で、日産自動車を辞めることを決意したという。  開発マンらしい考えが随所に出ていて、製造部門的考え方と闘う姿に好感を持てる。


『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』  若松 義人著 2002年2月20日
 成美文庫 505円+税


 1章   「平均点」で満足するな 
 2章   「できる」と思えば何でもできる 
 3章   楽にやるな、楽しくやれ 
 4章   倍々ゲームで「時間」は増える 
 5章   「今」こそがカベの越えどきだ 
 6章   「組織の力」を味方につけよ 
 7章   「知恵の出どころ」を深く掘れ 
 8章   ニューZ 
 9章   夢 
 終章   ビジョナリーであること 

 この本はトヨタ生産方式について書かれた本である。 しかし、カンバン方式やジャスト・イン・タイムなどの技法を説明した本ではない。 「人の可能性を信じ、人を育てていくことに粘り強く全力を傾ける」という、トヨタ生産方式の本質について書かれている。

 ここに書かれていることは入門書のように感じるでしょうが、トヨタ生産方式の本質が網羅されている。 ある業績好調の企業の社長さんが、好調の要因を『あたりまえのことを行っているだけ』と言われていた。 この本に書かれていることは簡単なことと思われるだろうが、これらの事柄をずっと続けるのは非常に難しい。

 この本に書かれている“当たり前のこと”を抜き出すと、下記のようなことです。



『交通事故鑑定人』(鑑定歴50年・駒沢幹也の事件ファイル) 柳原 三佳著 2002年2月10日
PHP文庫 419円+税


 第一章  死人に口なし 
 第二章  交通事故鑑定人とは 
 第三章  駒沢氏との出会い 
 第四章  偏見に満ちたバイク事故処理 
 第五章  事件簿より 
 第六章  学者に挑んだ父の執念 
 第七章  完全勝訴への長い道のり 
 第八章  切れた左足の謎 
 第九章  被害者の父は元警察官 

 世の中には多くの不条理なことがまかり通っている。その中のひとつが交通事故に関するものである。 交通事故による被害が軽微で、当事者同士が会話を交わせればほとんど問題は生じないであろう。 しかし、夜間等の全く目撃者がいない状況で発生した死亡事故では、「死人に口なし」で一方的に責任を押し付けられる例が多くある。

 交通事故鑑定人は、車や現場の痕跡をひとつひとつ合わせて、そのときの車の動きを正確に再現する仕事である。
 警察の自己調査は当事者を割り出すことを目的に行われているため、事故のその瞬間にそれぞれのクルマがどのように動いたかを解明するものではなかった。 そのため、つじつま合わせのようなずさんな取調調書も作られていたという。
 交通事故鑑定人は何ら法的な裏付けのない職業であり、過去には詐欺まがいの好意を行った人もいたという。 交通事故鑑定人の駒沢幹也氏の行動を追ったノンフィクション・ジャーナリストの書いた本である。

 ここで取り上げられている例は、2件を除いてバイク対クルマの事故である。著者はバイクに対する偏見を上げている。 しかし、私個人としては多くののクルマは任意保険に加入しているが、バイクは自賠責保険(強制保険)しか加入していないため、バイクを悪者にすれば支払う保険料がすくなくなることも大きな原因になっていると考えている。 数年前に多発した警察の不祥事により、警察の対応もこの本に書いているよりは改善していることを期待したい。

 この本に書かれている事例の事故車や衣服がそのままの形で残っており、相手のクルマさえ買取って保存していた人もあった。 このようなことを行っていなければ、交通事故鑑定人でも何もできないであろう。 駒沢幹也氏はもし被害に遭った時は、下記のように証拠の保全を書いている。

  1. 心の動揺はわかりますが、その悲しみに耐え、泣くのを半日我慢して、何はともあれ早い時機にカメラを持って現場にゆく、あらゆる角度からこれと思うものを写しておく。
  2. 次に警察に行く。警察に保管中の加害車両の写真をできるだけ欲張って撮る。 上手下手は問わない、キズのあるところはもちろん、キズのないところも。(これは自分側の車も同じ)
  3. その他、衣服、持ち物、等々も保存しておくように。災難に遭った人の家族や遺族の多くが、後日、地団太を踏んでも、追いつかない苦境に置き去りにされるのは、これらの物証の保存のないことが第一の原因です。



『カルロス・ゴーンは日産をいかにして変えたか』 財部 誠一著 2002年1月21日
PHP文庫 419円+税


 第一章  ゴーン改革が始まった 
 第二章  名門はなぜ凋落したか 
 第三章  「リバイバルプラン」 − そして「再建」へ 
 第四章  「日産の選択」が投げかけるメッセージ 
 第五章  日産、かく変われり 

 この本は著者の財部誠一氏が2000年1月に発刊した、

    
『カルロス・ゴーンは日産を変えるか』 財部 誠一著 2000年1月10日

に加筆、さらにゴーン改革の成果をまとめた第五章を追加したものである。
 日産自動車の改革が成功したのは、リバイバルプランにリアリティがあった、説得力があったことを強調している。 なんといってもリバイバルプランが傑出していた点は、目標達成の期限を宣言したことである。 目標達成に失敗したときには、引責辞任することを公約してしまったことである。 経営者みずからが退路を断ち、みずからを緊張状態にさらすことが社員に与える効果は絶大だが、とりわけ日産では意味が大きかった。
 次に、リバイバルプランには目標に至るまでのプロセスが克明に書き上げられていることである。 リバイバルプランの結論は、日産社内に初めからあったもので、ルノーとの提携直前に日産単独でつくった再建計画とリバイバルプランは本質的になにも変わっていないという。
 また、当時の社長だった塙義一氏が、守旧派を完全に押さえ込んだと書いている。 多くの企業の改革では、改革は常に守旧派との壮絶な戦いの果てにしかやってこないという。

 端的にいうなら、社内のなにをどう変えたら生き残れるのか、社員は皆知っている。 つまり、一番難しい問題は処方箋を描くことでなく、守旧派をどれだけ押え込めるか、どれだけ効率よく改革できるか、これにつきる。
 リバイバルプランの公表以来、日本ではカルロス・ゴーン評が日に日に高まっているようだったが、私はゴーン氏以上に、塙社長の果たしてきた役割の大きさに気づいたのである。



『トヨタvs.ベンツvs.ホンダ』(世界自動車戦争の構図) 前間 孝則著 2002年1月20日
講談社+α文庫 980円+税


 序章   日・米・独のサバイバル戦争 
 第一章  復興、躍進と日本車の台頭 
 第二章  問われる企業責任 
 第三章  “ビッグ3”の憂うつとバブル日本 
 第四章  戦略と組織の大改革 
 第五章  戦場はアジアへ 
 第六章  安全という名の企業戦略 
 第七章  “夢の自動車”プロジェクト 
 終章   自動車時代の文明史的転換 

 この本は著者の前間 孝則氏が1998年3月に発刊した、

    
『トヨタvsベンツ 世界自動車戦争の構図』 前間孝則著 1998年10月3日

を改題し、大幅に加筆・修正し、文庫化したものである。
 著者が大幅に加筆・修正したと書いてあるとおり、3年半のできごとが丹念に調べ、書かれている。


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