自動車工場の概況




自動車工場の概況


 自動車工場は一般的に次の3つのユニットからできています。

 
 比較的新しい自動車工場のレイアウトでは、上記3つの工場が独立して、その間をコンベアでつないでボディを搬送する形をとっています。 現在のところ運搬の無駄を排除できるレイアウトである。 同時に、部品やボディの運搬を少なくし、品質低下の危険性も低下させています。
 トヨタの英国工場、日産のスマーナ工場、日産のイギリス工場、そして、日産の協力で建設された韓国の三星自動車(現在はルノー三星)の工場等です。 自動車工場は組立加工型の工場であり、多くの部品搬入が必要な工場である。 これらの工場の特徴は、3つの工場の四方から部品を納入でき、モジュール組立て等に備えた拡張の余地があります。 それのみならず、工場の周囲が緑地に囲まれ、労働環境にも良いという効果もあります。

 右の写真はトヨタ英国工場で、右からプレス工場+ボディ工場、塗装工場、艤装工場となっています。 右の工場奥の高い棟の部分がプレス工場で、手前がボディ工場と推定できます。

   トヨタ英国工場

 まずは、Youtubeの工場見学で、工場見学は楽しいことを実感して下さい。

 
youtubeのBMWの工場の見学

 Miniの生産工場

 ボルボカーのGhent(ベルギー)工場の見学

 ランボルギーニの工場は、スペースフレームを使用していて、自動車会社の中では独自のボディ構造と生産システムをしている。

 youtubeのランボルギーニの工場見学

 トヨタ自動車のブラジル工場の動画には、販売の様子も見えます。

 youtubeのトヨタ自動車のブラジル工場の見学

 日本では一世代前のこの3つのユニットが隣接している工場が多くあります。 プレス工場は車体工場は隣接して運搬の無駄を省くと共に、プレス工場と協力会社のプレス部品の支給や部品納入がしやすいレイアウトになっている。 艤装工場では建屋の全面が部品納入場所になっており、部品受入れしやすく、艤装ラインへの部品配送もしやすいレイアウトになっている。
 自動車工場では、直接ラインで作業している作業者の数はクルマのクラスに比例して変わるだけで、あまり変動はない。 しかし、実際の自動車工場ではライン作業者のみでは、自動車を組立てられない。 部品を発注し、検収し、ラインサイドまで搬入し、カラの通函を運び出す等のサポートの仕組みが必要である。 それらサポートの仕組みには、レイアウトの工夫や、部品・仕掛品の滞留を防ぐ工夫に違いがあり、工場の実力の差を示している。

 2001年1月から生産を開始したトヨタ自動車のフランス工場であるヴァランシエンヌ工場は、内部のレイアウトが新しいと言われている。 工場の外観は第二世代の工場と同じように、溶接工場、塗装工場、艤装工場が一点でくっついた形をしている。 専門家の間では『星型工場』と呼んでいる。 しかし、未だ自動車工場の形の主流にはなっていない。

 通常、20メートルおきに柱を立てるが、そうすると必ずムダなスペースが生じる。 今回は柱のことは全く念頭に置かず、「一番いい通路、部品棚の配置から考えた」(渡辺社長)
 さらに、ボディー、塗装など各工程が終わるごとに作業の質をチェックできるようにした。 その結果出来上がったのが「星形」と呼ばれる凸凹の建物だった。各工程が終わるたびに、仕掛かり品は一度建物の中央部に集まる。 つまり、建物の中央部にいれば、工場の様子がすべて把握できるのだ。 組み立てに使うタイヤなどの部品は、工場の外から直接、ラインに搬入できるのでここでもムダを省ける。 エネルギー効率もいい。生産規模が同程度の工場と比べると床面積が4割も少ないためだ。 暖房費用は当然少なくて済み、国内工場と比べて、1台生産するためのエネルギー消費を3割も抑えることができた。(110〜111ページ『トヨタはどこまで強いのか』)
 これは工場の外観が星型ではなく、工場の機能が星型にくっついている。 第三世代の工場の利点であるそれぞれの工場の周囲から部品を直接搬入できる、将来の工場拡張の余地がある、隣接した場所に部品会社がモジュル化の工場を建てることも考慮されている。

 この工場が第四世代の工場であるのは、スループット時間(部品から完成車になるまでの時間)の短縮を考えているからである。 溶接工場から塗装工場、塗装工場から艤装工場へのコンベアを短くしたことによって、ボディ在庫の縮減とスループット時間を短縮を実現している。 工場管理面から言えば、3つの工場の接している場所に『情報広場』呼ばれるスペースを作った。 情報広場は『ひとたびここに立てば、工場内で何が起こっているかすぐに分かる。何かあればここで緊急のスモールミーティングを開き、事態に対処できる』という。 つまり、車体工場から塗装工場へのボディの流れ、塗装工場から艤装ラインへのボディの流れ、エンジン等の準備状況が見えるものと思われる。
 第四世代の工場の狙いは、工場管理工数の低減、つまりリーン化である。 第三世代までで工場作業のリーン化は一定の水準に達したと判断し、さらなるコストダウンを目指すには工場の間接業務の低減しかない。 3つのユニットをより一体的に運営を目指し、工場管理費(人件費)においても工場全体の効率化をより重視したものである。 そのために、それぞれのユニットにおいてより高い品質が要求される。 例えば、トヨタ自動車の九州工場等で取り入れられている分割ライン等、自律完結ラインの導入が進みつつある。

 自動車工場は昼休み、昼勤・夜勤間、週末は自動車工場の停止している。 最近では、トレーサビリティ管理が強化され、締め付けトルク等のをラインから収集し、記録するシステムが導入されている。 器具を使った溶接組立や作業内容の変わらない塗装工場では自動化が一層進んでいる。 しかし、艤装ラインでは自動化から手作業に変わり、手作業を手伝う自動化や誤部品取り付けシステムが導入されている。

 自動車の製造コストは大雑把に言えば、調達部品が7割程度であり、人件費は残り3割のうち半分程度である。 残りの半分の1割5分は、固定費である。 自動車工場のローコスト・オペレーションの基本は、次の3つの組み合わせである。

 自動車そのものは、バックアップ機能(冗長性)を省いてよりシンプルな設計になっている。 その反面、要求される部品の信頼度と耐久性は、ますます高くなっている。 シックスシグマが話題になったこともあるが、ある種の部品は50万個、100万個作っても100%良品であることが求められている。

 その上で共通化できる部品は徹底的に共通化し、消費者対応のカスタム部品は個々の車種向けに多品種少量生産で作る。 共通化した部品に、お客さまのそれぞれの要求に対応した特定化した部品を組み合わせている。 全体として部品点数を削減しつつ、部品の組み合わせで多品種少量のクルマを作ることができる。
 その時、金型等の固定費の多くかかる部品は共通化している。 また、荷姿の大きな部品は共通化することによって種類を減らし、在庫管理や輸送合理化を行なっている。 カスタム部品は荷姿を小さくし、多品種にしてもラインサイドに置きやすく、輸送もしやすくしている。

 次に、同期生産は、必要なモノを、必要な時に、必要なだけ生産する方法である。 トヨタ生産方式では、同期生産の究極の姿が「1個流し」がある。 日産自動車では、ストレート生産とも呼んでいる。 自動車工場では、溶接組立ライン、塗装ライン、艤装ラインを、あたかも1つのラインのように流すことである。 溶接組立後の個別検査や手直し、塗装終了後の手直し等のはみ出しをなくし、整流化を行なう。 それらのはみ出しのために、艤装ラインに負荷がかかる。 つまり、どの車種が流れてくるかわからないので、部品在庫を多めに持たなくてはならない。 トヨタ生産方式では、カンバン方式によって、使用した部品を補充する方式で部品在庫を減らしている。 日産自動車では、生産順序時間確定生産方式をとることによって、艤装ラインで流れる車種を計画通りにすることで在庫を減らしている。 ただ、単に生産順序を遵守するならば、溶接組立ラインの後、塗装ラインの後にボディの仕掛かり在庫を多く持ち調整することになる。 これを避けるため、生産時間も合わせて遵守する方法がとられている。 溶接組立や塗装ライン後の手直しをなくすために、大きな努力が必要になる。
 トヨタ生産方式では、在庫を減らすことによって同じ効果を得ようとしている。 ただ、自動車工場のような長いラインでは、在庫をカウントするには大きな手間がかかる。 これに対して、日産生産方式ではコンピュータのALCで簡単に評価することができる。 トヨタ生産方式では生産ラインの短い部品会社等のラインの方が有効に機能すると考えられる。 一方、日産生産方式は、生産ラインが長い場合により有効に機能すると考えられる。

 自動車工場の艤装ラインでは部品が大きく、重い部品もあるため、家電産業において行われているセル生産方式はとれないのが現状である。 部品をラインサイドに並べて、そこをボディを通し、自動車を生産する方法をとっている。 ライン生産の場合、どうしても作業者のラインバランスのロスをなくせないため、無駄が生じてしまう。
 これを回避するために、ライン外におけるサブアセンブリーを行なっている。 生産ラインは最大の負荷のクルマに合わせて設計せざるを得ない。 最大の負荷を下げることがラインバランスの無駄をなくす方法である。 色々な車種やグレードのクルマの工数を合わせ、はみ出した工数はライン外のサブアセンブリーで調整する方法がとられる。 そのためのサブアセンブリーは、設計段階で考えられなければならない。

 その他、部品をラインサイドに並べきらないため、順番納入が行われる。 順番納入は、ラインに流れる車種に合わせて、部品を供給する方法である。 ALC(アセンブリー・ライン・コントロール)ト呼ばれるコンピュータソフトによって、ライン上の車両が管理されている。 順番納入は、そのALCによって指示される。 シートやタイヤのように自動車会社の外の部品工場から順番納入されるものと、工場内で順番納入される部品とがある。 なお、ALCはセル生産方式と同様に、間違った部品の取り付け防止するためにも使われている。

 シンクロ生産や順番納入は、ライン上の同じ場所で同じ種類の部品を付けなくては成り立たない。 同じ艤装ラインで混流する車種は、同じ思想のもとで設計されるとムダが少なくなる。
 自動車そのものの設計そのものが、複数の機能を持ったサブ・システムの集まりという性格を持っている。 そのため、すべての部品をライン上で組み立てるよりも、サブアセンブリーしてから組み立てる方が効率的である。 少人数で行なうサブアセンブリーは、セル生産方式の利点が組み込まれる。

 溶接組立のラインが複数あり、塗装ラインと艤装ラインを共用する場合、溶接組立ラインの所要時間が近い方が生産計画を立てやすい。 時産(ラインピッチ)を変化させると生産台数とともに所要時間も変化してしまう。 この時、溶接組立開始で生産計画を立てると、時産を変えた時に平準化が乱れ、調整を必要とする。 溶接組立終了(塗装工場投入)をベースにして、逆算した溶接組立投入計画を作成すれば、平準化を維持した生産計画が策定できる。 このことは部品メーカーに求められている定期不定量生産と同じである。

 工場内では順番納入とサブアセンブリーを組み合わせて、ラインに供給している。 自動車工場は、生産ラインの何倍ものスペースを順番納入とサブアセンブリーする場所として使っている。 順番納入とサブアセンブリーを効率的に行うには、コンパクトな工場レイアウトの工夫が必要になる。

 順番納入とサブアセンブリーに対応するため、日本においても自動車工場のスクラップ&ビルドが行われている。 トヨタの乗用車を委託している関東自動車工業では、2000年夏に横須賀にある深浦工場の組立工場の閉鎖が行われた。 これは関東自動車工業が岩手工場を新設したためである。 また、トヨタ車体も三重県のいなべ工場を新設し、刈谷の組立工場を2001年初頭に閉鎖した。

 最近では、自動車工場での生産は、クルマの開発に合わせてCAE(Computer Aided Engineering)で組立順序や組立方法が検討されるようになった。 CAEで生産しやすさやコスト削減が主として行なわれている。 ただ、艤装ラインにおける部品箱の位置まで検討する工数がないので、部品を手に取った状態での作業のしやすさ等がCAEで検討されている。

 品質管理については、設計FMEA(故障モードと影響対策)のみならず、工程FMEAで生産時における問題点を指摘している。 工場では技術センターで作った標準作業書を自分たちにわかりやすい言葉になおしたり、工程FMEAなどに基づいた教育を行なわなくてはならない。

 自動車工場には、これら3工場の他にエンジン・ミッションの機械加工・組立工場が付属していることがある。 更に、素形材を供給する鋳造工場・鍛造工場が付属していることもある。 また、プレス等の金型や車体工場の冶具を作成する工機工場を持っていることもある。 しかし、工機工場は自動車工場に近い方が便利ではあるが、必ずしも隣接する必要はないであろう。

 なお、最近の自動車工場の課題は、環境会計を取り入れたエコ・ファクトリーである。 例えば、工場内にスポットクーラーを多数置くと電力が多くかかってしまう。 また、スポットクーラーそのものは、冷風が当たっているところは涼しいが、熱も発生している。 そのため、工場そのものを暑くしてしまう。工場全体の冷房をし、断熱効果を上げることによって、工場全体のエネルギー効率を上げることができる。

 自動車工場のバーチャル見学できるサイトは、

 但し、大型トラックの場合、シャーシ、キャビン、荷台は塗装済の部品として納入されるため、 トラック工場は艤装工場が主となっている。


自動車工場の設備について


 軽乗用車も登録車も構造はほぼ同じになっている。 ルーフの両端にあるモールの形状から、モヒカン構造と呼ばれるボディ構造している。 RV系の車種も、乗用車のプラットフォームを流用して作られることが多くなっている。

 同じ人が軽自動車から高級車まで同じ人が乗るので、安全に関わる装備はほとんど同じである。 販売価格に見合う装備と、大きさの違いにあるが、艤装ラインで取り付ける部品点数の違いとなっている。 カーテンエアバックなどは、登録車にしかないが、このような装備は珍しい。 高級オーディオと普及品という違いはあっても、大部分は同じ装備が付けられている。

 軽自動車で約700点、登録車で約900点、高級車になれば更に増える。 ライン生産の特徴として、負荷の一番高いところに生産能力を設定しなければならない。 軽自動車と高級車を混流すると、軽自動車のコストが上がってしまう。 また、軽自動車の場合、長さが短いので、ラインの間隔を縮めて、ライン全体の長さが短いこともある。 そのため、同じクラスのクルマしか混流していない。

 自動車メーカーは多彩な提携等を通して、お互いに情報を共有している。 また、自動車産業はそれぞれの自動車メーカーがお互いの工場を見学し合う業界でもある。 さらに、工場設備は溶接ロボットのファナック、コンベアのダイフク等、塗装設備の大気社等の同じメーカーの設備を使っていることが多い。

 自動車メーカーはお互いのクルマを分解して(ティアーダウン)して、どのような部品を使い、どのような組み立て方をしているかを、お互いに研究し合っている。 その結果、世界の自動車メーカーはほぼ同じ設備に、同じ方法を使ってクルマを生産している。 設備の違いは、生産量と生産車種数を反映したものと、減価償却費の関係で既存設備を使用し続けているかの違いである。

 自動車会社の業績の違いは、大部分は開発力に関連したものある。 具体的には、戦略、組織力、つまり人の使い方の巧拙の違いと、会社全体を考えた上での生産のあり方によって生じている。 例えば、トヨタ生産方式の真価は、単なる生産方式や技術ではなく、静的な品質の高さや低コストと言ったものでなく、動的な品質やコストの改善能力である。 それは、10年20年と人を育ててきた質の違いにある。 だから、いくら工場をオープンに見学させても、ほんとうの実力はマネすることができないのである。 それよりも工場をオープンにして、違う見方からの改善の余地を見つけてもらうことを重視している。

 日本の自動車会社がアメリカ進出し始めた1980年代には、1本の生産ラインを持つ自動車工場の最適な生産台数は20〜25万台/年と言われた。 これは塗装工場、特に下塗りの電着塗装の設備能力、艤装ラインで1人が受け持つ作業量などから割り出したものと考えられる。 下記の考え方に沿ったものである。

 トヨタ自動車にはマキシー・シルバーストーン曲線という概念がある。 1960年代、トヨタ自動車はワイド・バリェーションでフルラインメーカーを目指した。 フルラインメーカーの体制がとりあえず整うと、1モデル当たり生産台数の目標を20万台においた。 マキシー・シルバーストーン曲線によると、基本モデル当たり年間20万〜30万台以上生産しても量産効果は微小である。 トヨタ自動車は、マキシー・シルバー曲線に基づき、1基本モデル当たり年産20万〜30万台に到達したら、それ以上量産効果を追求するのではなく、新しい基本モデルを発生させて新しい顧客を開拓・吸収するほうが総販売台数が増え、経営上有利と判断した。

 この工場は、私がマツダに入社した3年後(1972年)に操業が開始された。 年間236,000台は、宇品第一工場に次ぐ2番目の生産規模だった。 ピーク時には、組み立て、塗装、車体、プレスの4部門で1450人が勤務していた。(13ページ『フォードvsマツダ 日米戦争に学ぶ ビジネスマン 明日への12章』)
 しかし、最近のトヨタ・本田技研の欧米の新設の自動車工場をみると、1ライン24万台/年,1000台/日、タクトタイム約52秒という生産ラインが増えている。 また、1工場2本以上の生産ラインを持ち、年間50万台以上の工場もある。 エンジンの現地生産を行うには、最低50万台/年の規模が必要らしい。

 自動車工場は、フレキシブル生産ラインの構築という効率上の課題を持っていた。
 このフレキシブルラインはトヨタを初めとするどのメーカーでも進められているが、その狙いは、数多くある車種を生産ラインに流す場合、売れ行きに応じて柔軟に入れ替えて、ユーザーの注文に素早く対応して納車までの時間をできる限り短くするものである。 たとえば現在、生産ラインへの新型車の投入や生産車種の入れ替えには最大で2ヶ月かかっているものを、2年後には2日程度に短縮しようという驚くべき効率化を図り、つねに設備の稼働率を高い値に維持して収益性を上げようとするものである。
 トヨタの発表によると、高岡工場などで導入を進めている新たなフレキシブルラインの導入に基づく効率化によって、3割弱だった2000年の受注生産比率を2010年には7割に引き上げるとしている。 この狙いは、先のようにユーザーの注文から納車までの日数を縮めるのはもちろんだが、需要変動に素早く対応すると同時に、トヨタカンバン方式の基本理念である在庫を極力減らすことにも貢献する。(240ページ『トヨタvs.ベンツvs.ホンダ』)

 例えば、在庫が全くない状態でお客様から注文を受けた場合、現在はお届けするまで平均で19日かかっています。 それを最低でも2週間、できれば10日まで一気に短縮していくつもりです。(144〜145ページ『トヨタはどこまで強いのか』)
 1980年代は、日本の自動車メーカーは品質の高さと低コストで世界を席巻した。 1990年代に入ると、設計といっしょに行なうコスト削減というブーメラン効果を受けた。 実は、日本の自動車会社は、何で強いのかわかっていなかった。 アメリカの自動車産業研究で現場力が強調され、その考えを受け入れていた。 そのため、スリムな設計という面で逆転されてしまった。
 1994年当時、TMM(米国トヨタ自動車工場)の社長であった張富士男は、米国でもっとも生産性の高い工場であるといわれていたフォードのアトランタ工場を見学して、このままでは勝てないと思ったという。 個々の作業では、トヨタのほうが密度も高いし、人の使い方もうまいが、フォードのほうが部品点数が少なく工程数も少なかったので、トータルではフォードのほうが人が少なかったのである。 それまでのトヨタ生産方式は、現場中心で、どちらかというと与えられたもののムダを一生懸命省いてきた。 今後は設計と一緒になって考えていくという方向でなければならない、と強く思ったという。 しかし張は、トヨタはすでにそういう方向(設計のリーン化)に向かっているので心強い、とも語っている。(307〜308ページ『トヨタ経営システムの研究』)
 もうひとつの考えが、各々の工場の設備や組立のやり方を統一することにより、工場の設備の違いを開発・設計に持ち込むことないことを目指している。 トヨタ自動車のグローバル・ボディ・ラインなどがある。
 生産部門とのやりとりも重要である。 部品メーカーから納入されたパーキング・ブレーキが最終組立ラインでどのように車体に組み付けられるのか。 組付作業手順が組立工程の効率や品質管理にとって不都合のないように注意しなくてはならない。 できるだけ作業者が手早く、しかし負担のない姿勢で、そして不具合のおきにくいような作業によってパーキング・ブレーキを組み付けられるような設計上の配慮、工夫が求められる。 無駄な投資を避けるため、既存のラインのレイアウトを活かせるような設計を求められるようなこともあるだろう。 例えば、次のような事例がある。 異なる工場で生産されていた2つのモデルがあって、設計担当者が両モデルのパーキング・ブレーキの設計を統一しようと考えた。 ところが、片方の工場ではパーキング・ブレーキの組付け(ケーブルの接続作業)をボディの下側から行なっていたのに対して、もう1つの工場では室内側から行う工程になっていた。 これをどちらかの作業方法にそろえるには一方の工場で数億円の追加投資が必要であることが判明し、結果的にそれぞれの設計にさぜるをえなかった。 各工場の既存の工程によって設計が制約されるという事例である。 これを無視すれば結果的に割高の設計となってしまう。(144ページ『分業と競争』)
 自動車工場の実力は、そのレイアウトを見れば工場の実力は大方の見当がつく。 自動車工場では、1本のラインで全ての部品を組み付けていたのが、サブラインでの組付等の分散化・ユニット化の方向へと変化している。

 自動車工場で生産するクルマは、試作車(量産試作)、量産車、再生産車である。 量産車は国内の場合、国土交通省の型式認証を取得しなければならない。 輸出車でも、アメリカにはアメリカの型式認証があり、EUにはEUの型式認証がある。 自国で型式認証制度を持っていない国では、アメリカやEU等の他国の型式認証を持っていることが条件となる。 試作車はそれら型式認証を取得するためのクルマである。 量産車は販売のために、型式認証を取得したクルマの生産である。 再生産車は、量産車の内、型式認証等の条件に適合しないクルマを再度生産することで、正式の生産計画に反映されないことが多い。 また、新車開発のために溶接組立したボディのみを生産することもある。

 ただ、自動車工場は、多くの面を持っている。 1円単位のコスト低減を行なっている面もある。 それは、主に部品会社や作業請負等に対してである。 その一方では、労働組合対策として、時産を下げることによって、必要のない残業や休日出勤も行なわれている。

 強い生産部門(いろいろな面で非常に対応能力の高い生産部門)は、巧みに生産余力を隠し持っていることが多い。 社員の休暇取得状況や、不良品の手直しによっても、生産ラインの状況は刻々と変わる。 生産ラインには、改善班というバッファーを持っている。 普段は部品棚を作ったりして、ライン作業者が休暇等で休むとラインで作業する。 部課が細かく分かれていると、それぞれの部課ごとにバッファーを持つことになる。

 生産現場は、強い生産指向を持っている。 生産部門は、販売に合せて生産するよりも、日々の生産においてもまとめて生産したがる傾向を持っている。 特に、決算対策で一定期間に生産量を集中させる会社は、高コスト構造に陥っているものと推定される。 更に、一度決めた仕事のやり方や分担方法は変えたがらない傾向を持っている。 それに対して、トヨタ生産方式はマーケティングの視点を生産に持ち込んで、生産指向を否定し、新しい試みを奨励している。

 1980年代に、日本の製造業が世界を席巻した時、表面上で生産部門の士気の高さが目立った。 国内で生産コストをどれほど削減できたとしても、中国という存在がある限り、いずれより低価格の製品が出てくる。 このような状況の中で、かつてのアメリカと同様に工場労働者の士気は低下していき、その対策に頭を悩ますようになるだろう。 最近では、生産現場で働く派遣労働者が増えている。


工場内組織について


 トヨタ自動車の場合、下記である。
 技能系の生産現場では、大量採用された若年層を底辺としたピラミッド型組織がしっかりとできていた。 そして、技能員の間には、班長ー組長ー工長という順に昇格して「組織の管理監督のできる人になる」という認識が確立されていた。 したがって、多くの技能員の目標は、組長や工長になることだった。
 ちなみに、班長になるのは、早い人で28歳、平均で34歳くらいである。組長は平均43歳、工長は平均48歳という。
 「組長さんになると、黄色い太い線が作業用帽子に入る。さして、ラインからもはずれる。だから、みんな、それを目指してがんばっていたんですね」
 『トヨタの秘密』(福井浩二著、1999年7月15日)によると、工場内組織は下記のようになっている。

   課長−−−チーフリーダー(CL)−−−グループリーダー(GL)−−−エキスパート(EX)−−−一般
          |                |
         チーフエキスパート(CX)   シニアエキスパート(SX)

 1991年、従来の組長や工長といった管理・監督ポストとは別に、工長級資格に「CX(チーフエキスパート)」、組長級資格に「SX(シニアエキスパート)」、班長級資格に「EX(エキスパート)」という専門技能職位を作った。 「専門技能職」という新しい職位を設けることによって、ポスト不足の解消を図ったのだ。(104ページ『トヨタはいかにして「最強の社員」をつくったか」)

 組長は「グルーフリーダー(GL)」、工長は「チーフリーダー(CL)」とした。 これまでは、班長、組長、工長というように、長のつく職位は三階層あったが、それをチーフリーダー、グループリーダーの二階層にしたのは、部下の数が圧倒的に減っていることや、自動化が進み、たくさんのリーダーを必要としなくなったことも背景にある。(115ページ『トヨタはいかにして「最強の社員」をつくったか』)

 トヨタ自動車が生産現場の大改革に乗り出している。強さの根元であるトヨタ生産方式(TPS)。 その現場をもっと強くする試みで、2002年3月末までに、工場の全グループリーダー(GL)が生産ラインから外れ、本来の業務である一般工員の管理・監督に専念できる体制を固めた。
 GLはトヨタの国内工場だけで約4800人いる。 担当するラインがスムーズに稼動しているかなど目配りすると同時に、部下の教育にも当たるTPSの第一線指揮官だ。 ところで、できるだけ少ない人員でラインを動かそうと合理化を追求するにつれて、熟練工でもあるGLがラインでの仕事に駆り出される場面が増えた。 部下の指導・教育は後回しになりがちだった。(79〜80ページ『トヨタはどこまで強いのか』)
 また、ホンダの組織はホームページに掲載してある。
工場では、班(はん)に分かれて仕事をしているんだ。 ひとつの班には、25人から30人ぐらいの班員がいて、それがさらに6人から7人ぐらいのグループに分かれている。 緑のボタンがおされたときに手伝いに来るのは、それぞれの班長で、班長は班全員の仕事がうまく進むように、常に全体を見守っている。
 組織形態は下記です。

 班長−−−班長代理−−−チーフリーダー−−−グループリーダー−−−班員
           |
           ・−品質担当

 一般的には、ひとつの艤装ラインは、ひとつの課から成立っている。 艤装ラインで作業する人たちは、幾班に分かれている。 また、ひとつの班は幾組かに分かれている。 組長・班長とリーダーを作る仕組みができている。 また、ライン・スタッフの形式になっている。

 最近、ホンダは生産体質改善によって作業班を廃止し、大括りを実施した。
 従来は20人ー30人単位で構成する班組織を基本に、3つの「班」で1つの「係」を設け、さらに3つか4つの「係」で1つの「課」を作るといった組織構成を簡素化し、 最小単位の「班」を廃止して、もっと大括りの百人単位のユニット組織を設けて機能的に動けるようにした。(40〜1ページ「ホンダのDNA継承術」)
 また、工場設備を管理しているのは、生産技術部門である。本田技研の場合は、別会社の本田エンジニアリングである。
 トヨタの工場には「生産技術部」という部門があり、ここでは生産効率の改善と同様に、品質の改善を生産設備の面から検討していく。 ここのスタッフは工学部出身のエンジニアで、開発部のエンジニアと同じレベルの技量を持ち合わせている。 つまり、トヨタでは、生産現場と生産技術が同じ現場で同居しているわけだ。これも、トヨタ流の現場主義の思想の反映だといえる。 トヨタ生産方式でライン改造を進めてきたのは、この生産技術部でもあったのだ。(114〜5ページ『トヨタとホンダ』)


車のできる時間


 本田技研の鈴鹿工場見学のホームページでは溶接組立て時間2時間、塗装時間4時間、艤装時間2時間と書いてある。 これは塗装のところで指摘したように、純粋の作業時間であると考えられる。 溶接組立て時間はたぶん2時間程度であると考えられる。
 塗装時間は前に書いた理由により8〜9時間程度と考えることができる。
 艤装時間は2時間でも可能と思うが少し短いような気がする。 そして、この時間にはインスペクションとテスティングの検査時間が含まれていない。 その後、出荷のためにラップフィルムを貼ったり、ワックスコートを塗る工程がある。 艤装時間に検査時間等を加えた時間が3時間となる。
 残りの2時間は塗装工場から艤装工場へ送る時の緩衝在庫に利用されていると考える。 マツダのホームページでは全行程の所要時間を15時間程度と書いてあり、これが標準的な乗用車の組立て時間と思われる。 なお15時間という数字は、昼夜2交替勤務で実作業する時間に等しい。

 最近、BTO(build to order)の試みが行われている。 1970年代にトヨタ自動車がセリカで選べるシートを出したのが、BTOの先駈けではないかと思う。
 顧客の要望に合わせて、世界に2つとないオーダーメイドのクルマを作るー。 顧客満足度を上げることはもちろん、売れずに大量の在庫を抱えたり思わぬヒットで生産が間に合わず販売機会を逸しかねない見込み生産のリスクを避けるためにも、クルマの受注生産は自動車メーカーにとって長年の課題だった。
 半面、個別の要望に十分応えようとすると車種車型が増え、大量生産のうまみがなくなってしまう。 トヨタも今から約20年前に「フルチョィスシステム」と銘打って、クルマのエンジンやシートなどを個別に選べる仕組みを採用したが、長くは続かなかった。 また、バブル期には利幅の大きい高級車が飛ぶように売れながら、車種車型を増やしすぎて繁盛貧乏に陥った苦い歴史もある。
 このカスタマイズサービスも同じような問題を抱えるが、従来と大きく違うのはインターネットという情報インフラを駆使していることである。 顧客の要望をインターネットを通じて時々刻々と吸い上げ、その情報を工場につなげる。

 新しいサービスの仕組みを簡単に説明しよう。 顧客はまずパソコンやコンビニの端末などからトヨタのインターネット販売の窓口であるGAZOOにアクセスする。 そして、希望の色やオーディオを予約する。 GAZOOのセンターはこれを受けて、ネットワークから関東自動車のデータベースに部品の在庫状況や塗色の可否・納期を問い合わせる。 その結果を顧客の住む地区の販売店に流すと同時に、顧客との電話による接触を指示する。 顧客がほんとうに買う意思があるなら、値引きや下取りの交渉を始め、ネットワークを通じてGAZOOセンターに実際の注文を出し、関東自動車に生産を指示する。
 この過程における大きなミソは、関東自動車の在庫状況や仕事の繁閑さによっては、顧客の要望に応えられないことだ。 マニアに人気の世界的に有名なオーディオ製品は、一度に大量の注文は難しい場合が少なくなく、常に十分な在庫を確保できるとは限らない。 また、たとえ確保できても、もし売れない製品を在庫として抱えれば、コストアップ要因となって製品価格に跳ね返る。 それでは結局、このサービスの意味がなくなってしまう。
 関東自動車は必要最小限度の在庫だけを持ち、その状況を逐一、GAZOOセンターに開示しておくことで、低コストのカスタマイズを可能にした。 それではメーカーの都合が優先され過ぎないかとの批判には、「それがインターネットの良いところ。 情報開示で、こちらのできること、できないことをはっきり示せば、お客さんも分かってくれるはず」と関東自動車の内山晋社長は言う。(203〜204ページ『トヨタはどこまで強いのか』)

 BTOとは単なるオーダーシステムの改革という狭義の見方でなく、顧客が何を求めているかを常に中心に置いた、車の設計、生産、納車、サービス提供のプロセスをつくり上げること、Build to customers' various order こそが本当の意味なのだ。(210ページ『トヨタはどこまで強いのか』


 新しい形態の自動車工場 


 日本の自動車会社は市場重視の考え方により、工場の進出を決める。 いわゆる需要のあるところで生産するという考え方である。 ところが、需要のあるところが必ずしも自動車産業の集積が進んでいる地域とは言い難い状況にある。 例えば、トヨタのテキサス工場は、アメリカの自動車産業の集積地とは離れている。 そこで、18社の部品メーカーが敷地内に工場を構えている。 それらの部品メーカーがモジュール生産を担い、コスト削減に努めるのである。 部品をモジュール化すれば、当然荷姿が大きくなり、輸送効率が低下する。 同じ敷地にあることによって、この欠点を補っている。  似たような例に、自動車工場に隣接して部品会社の工業団地を作る例である。 フォードのKaやマツダのデミオを生産しているフォードのスペインにあるバレンシア工場である。 中国にある東南汽車も台湾から多くの部品会社を引き連れている。 インドの現代の工場も同様に多くの韓国の部品メーカーを隣接する工業団地に引き連れている。 また、日本でも関東自動車工業が岩手工業で同様の仕組みを導入している。

 また、同様の考えとしてミルクランの部品調達方式がある。 自動車産業集積地以外では、部品の輸送インフラも発達していない。 自動車メーカーが、主体的に部品輸送を担う方法である。 トヨタはアメリカのNUMMIでミルクラン方式を導入した。 トヨタはインドにおいて、ダイハツと共同で工場建設するのに伴って、大規模なミルクランの実証実験を行なう予定である。


鋼板について


 コイルの形で納入され、鋼板の使われる部位によって1mmから0.6mm程度の鋼板を0.05mmの区分で使用している。 同じ厚みの鋼板でも表面処理の方法によって数種類に分かれている。
 北欧やカナダ等の積雪の多い国では、溶雪用に塩を撒いている。 そのため、自動車外板が錆び、穴が明いてしまうという不具合が発生していた。 このために、自動車外板が錆で穴が明いた時、自動車メーカーに修理費を負担させる法律ができた。 その法律対策として、自動車の外板に亜鉛メッキ等の表面処理板の使用が始まったと言われている。 現在では、塩を道路に撒く国ではクルマの下のアンダーコートも行っている。
 三菱自動車は韓国の 浦項製鉄所(POSCO) の冷延鋼板を内部パネルに使用している。 最近では、自動車の外板に使用される表面処理鋼板の使用の検討に入ったという。 なお、浦項製鉄所(POSCO)の鋼板は白物家電製品には、かなり前から使用されていたという。 また,最近では電気炉による熱延鋼板も使用されることが多いという。

 日産リバイバルプランによる集中購買制度をきっかけとして、自動車鋼板のグローバル展開として業界の再編成が進行中している。 高炉5社と呼ばれた鉄鋼5社は、新日鉄、神戸製鋼、住友金属のグループと、川崎製鉄、NKKのJFEホールディングの2グループになった。 粗鋼生産3位の川崎製鉄(株)と粗鋼生産2位のNKK(日本鋼管(株))が、持株会社JFEホールディングス(株)を設立した。 2003年4月1日には、JFEホールディングス(株)を持株会社とする複数の事業会社に再統合された。 事業会社は、JFEスチール、JFEエンジニアリング等の会社に再統合される予定である。 これにより、JFEスチールは新日鉄にならぶ粗鋼生産量を誇る世界第4位の鉄鋼メーカーになる。
 鉄鋼会社の再編成は日本だけにとどまらず、ヨーロッパを始め、世界中で起こっている。 新日本製鉄(株)は、2001年1月にアルセロール社(旧ユジノール社)と戦略的提携契約を結んだ。 JFEグループは2002年4月に包括技術提携をティッセン・クルップ・シュタール社(本社ドイツ デュースブルグ市)と結んだ。

参考ホームページ

参考文献


自動車工場の概要, 車体工場, 塗装工場, 艤装工場, 部品納入, エンジン工場等, 新車開発概論, 新車開発(モデル決定まで), 新車開発(モデル決定以後), プラットホームの統一について, 開発センター, 開発主査(チーフエンジニア), クルマの安全問題について, クルマの安全(衝突実験), クルマの環境問題T, クルマの環境問題U, 燃料電池自動車, 電気自動車, リサイクル, 欧州の自動車リサイクルについて

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