『ジャスト・イン・タイム生産の実際』 平野 裕之著
1990年7月20日 日経文庫(B82)
| 第1章 | JIT生産とは |
| 第2章 | JIT生産の考え方と5S |
| 第3章 | 流れ生産と多工程持ち |
| 第4章 | 標準作業と自動化 |
| 第5章 | 目で見る管理とカンバン |
| 第6章 | 段取り替えと品質保証 |
| 第7章 | 保全と安全 |
この本のまえがきに下記のような記述がある。
いままで、自動車のデザインの主流は、シャープな流線を基調としたものでしたが、ここ数年、丸味をおびたデザインがメインになっています。
この記述を読むと1990年に書かれた歴史的な背景を感じるが、本題の生産管理については全く現在も通用するものであり、時代遅れを感じさせない。
自動車のデザインは燃費向上を意識した空力を意識した丸味はあるが、極端な丸味のデザインのクルマはなくなった。
現在のクルマのデザインの主流は、各々が個性を反映しやすいプレーンなデザインへ移っている。
それに対して生産管理が新鮮味を保持しているのは、企業が過去の成功から抜け出ることができなく、新しい生産管理を取り入れられなく、じり貧に陥っているからである。
まさに、空白の1990年であった故に、この本は現在でも通用する価値を持ち続けているのである。
平野氏はグローバル化による影響を下記のように書いている。適切な判断であると思う。
より国際競争力をつけるために、日本の生産品はNIESやASEANにどんどん流れます。
海外に出ていく製品の特徴は、@量がまとまり、A納期に余裕があり、Bあるレベルの品質のものです。
すると、日本国内に残る生産品は、当然、この逆の特徴を持つことになります。
つまり、@量がまとまらず、A納期に余裕がなく、B一級の品質で、かつ価格としてはC市場価格で抑えられた製品です。
このため、市場の変化や多様化が激しくなる中で、さらに追い打ちをかけ、ますます“多品種少量・短納期生産”が要求されることにもなります。
もうひとつの視点が、生産指向や販売指向から消費者指向への転換である。
たしかに戦後の日本は、モノが不足していました。洋服、靴など、生活に必要なものでも、不足していました。
こんな時代には、とにかく材料をかき集めて製品を造れば売れたのです。今から思えば、「造れば売れる」よき時代だったといえるでしょう。
次に、「造ったから売る」時代となり、営業や販売が重視されるようになりました。
そして現在、洋服や靴を売る店はどこにでもあり、商品は店の陳列棚からあふれています。
こんなご時世では、造ってしまったから売れといっても、なかなか売れません。
そこで、「売れるものを造る」時代になったのです。売れるものを企画し、また売れるものをさっと早く造ることが必要なのです。
補足すれば、どの製品がどのくらい売れるかは、必ずしも予測することができない。
そのために、最低の在庫で、売れたらすぐに補充するか、もしくは注文を受けてから生産する受注生産に切り替えて短納期でしなくてはならない。
この2つの視点を無条件に受け入れ、改善を成立たせるのが“JIT生産方式”であり、別の言葉を使えば“トヨタ生産方式”と言ってもよいのではないかと考える。
現在、多くの企業が疲弊しているのは、この前提条件を受けいることなく、JIT生産方式の技法のみを取り入れているからだと考えられる。
これらの企業では、生産管理をナレッジ(知識)としてではなく、生産体制として一段一段積み重ねてきたのではなかろうか。
だから、上記の2つの視点を受け入れ、生産体制を変えることができなかったのであろう。
“売れるものを企画”するのは商品企画の問題であり、“開発した商品をより早く市場に投入する”のは開発の問題である。
また、“どのくらい売れている”かを調べる必要がある。
クルマの例で、人気の高いクルマが発売され、供給が少し間に合わなくなると、販売店は必要以上のオーダーを出す傾向がある。
ブームが過ぎると、販売店は過剰な在庫を抱え、オーダーが大幅に減ってしまうことがある。
反対に、売れなくて、しかたなく新古車として中古車屋に叩き売ったクルマも、売れたものとして数えられる。
そのために、実際に最終顧客に販売された台数を正確に掴むにはかなりの努力がいる。
JIT生産方式を実践するには、実際は全社的な努力が必要である。
この本に書かれていることは、生産部門が担当すべき内容が書かれていると考えるのが妥当であろう。
JITとは、「徹底したムダ取りの思想と技術」なのです。
工場にはびこるあらゆるムダを徹底的に排除し、顧客ニーズに合わせて物を作る新しいIEでもあります。
このことは2つのことを表している。ひとつが「徹底したムダ取りの思想と技術」である。
もうひとつが顧客ニーズに合わせて柔軟に生産システムを変えなければならないことで、常に変化することである。
この2つが企業文化に根差してこそ、企業改革は成功する。
1章では、JIT生産のあらましと導入の手順および推進体制について述べてある。
- 現場改善の前提=意識改革
- 現場改善の基礎=5S
- 流れ生産
- 平準化
- 標準作業
私はこの中で最も重要なのは意識改革だと思う。
変化に対する恐怖心をなくし、常に無駄をなくし、変化することを受け入れる必要がある。
2章では、JIT生産革命を実施するためのいろいろな考え方と、整理・整頓・清掃・清潔・躾の5Sについて説明している。
JIT生産抵抗の十項目
- そんなものは役立たない!
- たしかにそうだが、われわれは違う!
- 案としては立派だが…。
- これ以上、コストは下がらない!
- われわれだって、いつもそうしている!
- 他人の勧めでやるのはイヤだ!
- コストを下げれば、品質は落ちる!
- うまくいっているではないか? なんで変えるのか?
- そんなものはダメだ! われわれは20年前にやったことがある。
- われわれは、そのことについて一番よく知っている。
改善の基本精神十ヵ条
- 造り方の固定観念を捨てよう。
- できない理由の説明より、やる方法を考えよう。
- いい訳をするな、まず現状を否定する。
- いい事はすぐやる、悪いことはすぐやめる。
- パーフェクトを求めるな、60点でもよいからともかく進めよう。
- 誤りは、その場ですぐ直せ。
- 困らなければ“チエ”がでない。
- 真因の追究 − “なぜ”を5回繰り返せ。
- 1人の“ひらめき”より、十人の“チエ”を!
- 改善は無限である。
3章から最後の7章までは、JITの基本となる11の機能について、流れ作業から保全・安全まで詳述している。
- 流れ生産
- 多工程持ち
- 少人化
- 標準作業
- 平準化
- 自働化
- 目で見る管理
- かんばん
- 段取り替え
- 品質管理
- 保全と安全
なお、この本が発売されて10数年の間に、流れ生産(1個流し)の究極の形としてセル生産方式(1人生産方式)が出てきた。
このセル生産方式を効率よく行うためにモジュール化も進んだ。
また、グローバル化の進展により、資本(機械・設備)は国境を越えて動くようになり、日本の高賃金水準は知的熟練と技能的熟練によって支えられることになった。
働く人たちのモラール(勤労意欲)の重要性が認識されるようになった。
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この本の著者の平野裕之氏は、ジット経営研究所を経営している。ホームページは下記です。
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