VE/VAとは
我々はいろいろな製品を買っています。
それはその製品が我々の望んでいるもの(欲望)を、満足させてくれる性質があるからである。
この欲望を満足させてくれる性質のことを機能(function)とか働き(work)という。
言い換えれば、我々が製品が欲しいから買うのではなく、その製品が持っている機能がほしいから買うのである。
一般的には、製品は使用価値の他に、交換価値や希少価値を持っているが、VE/VAでは使用価値のみを対象とする。
使用価値も下記のように分類している。
- 実用価値(use value)
- 美的価値(esteem value)
乗用車はコストの安い移動手段として購入する場合も、ステータス・シンボルとして購入する場合もある。
しかし、美的価値は金額として非常に評価しにくく、官能的な判断が要求される。
消費社会が成熟してくるほど、高級品になるほど、美的価値の要請が高まっている。
しかし、VE/VAはもっぱら実用価値に重点を置いて行われることが多い。
そのため、美的価値はVE/VAの枠外で行われ、感性の問題となっている。
実用価値と美的価値の比重が実用価値に大きく振れると、スペック主義の考えの強い製品になってしまう。
今までのVE/VAは生産現場で、過剰品質の排除に力点が置かれていたボトムアップの手法であった。
その背景には、日本が欧米製品の改良製品を作っていたことがある。
その製品の持つ基幹となる機能はそこそこであるが、価格が手頃で耐久性があり、仕上がりも丁寧であった。
このことによって、1980年代に日本の製造業は世界を席巻した。
その成果に対して、VA/VEの果たした役割は大きかったことは評価されるべきである。
ところが、1980年頃からの日本でのモノあまり現象は、今までのVA/VEでは対処できず、新しい手法を必要としていた。
にも関わらず、既存のVA/VEの手法に固執した結果、、部品点数が増加する等の生産管理や在庫管理で大きなムダを発生していた。
この傾向を止めたのは、欧米から導入されたマス・カスタマイゼーションの考えである。
もうひとつが技術者が消費者について知るということである。
従来、設計・生産部門(技術部門)留まっていたVA/VEの手法を消費者の視点で見ることであった。
その結果、最近ではマス・カスタマイゼーションとして、量産する部品とカスタマイズする部品を分けて部品点数を減らすのが主流になっている。
例えばフィットの前に発売された「ロゴ」についてだが、販売価格を下げようとコスト削減に頑張ったのだが、できあがったクルマが安っぽく見えて、商品としてはいまひとつだった。
「フォルクスワーゲンのルポとかポロは、比較的安いが、クウオリティは高い。
ホンダもそのあたりと競争していくので、ロゴの後、商品性の目標を高くした」(黒田博史取締役)
このような活動を通して、ホンダは徹底的にコスト意識を設計者に植え付けてきたといえる。
ホンダはそこで品質を落とさずに、いかにコストを下げるか、という勘どころを掴んだ。
その結果がフィットにも出ているわけで、この10年ほどでホンダのクルマ作りは、過剰品質から低コストへ、かつ商品性の高いクルマ作りへと移行したのである。(102ページ『トヨタとホンダ』)
VEのもうひとつの特徴は犠牲のとらえ方である。
同じ機能を果たす製品が多く出回っていると、我々は最も安いものを選ぶと考える。
同じ欲望を満足させてくれるものなら、犠牲(あるいはコスト)の少ない方を選ぶと考えた。
つまり、安ければ売れるしいう考えが、現在の日本の産業を窮地に陥れている。
現在の多くの消費者は、同じ価格もしくは低価格で、より質の高い商品を望んでいる。
ところが、VA/VEの手法には、より品質の高い製品を開発する技術がない。
供給側の価値観と、市場側の価値観を調和させるのが、本来VE/VAに求められる機能である。
ところが、コストダウンによる価値向上の手法に依存し過ぎてしまった。
それを安直な成果主義人事制度が加速させてしまった。
コストダウンによる価値向上は、効果金額で測定しやすい。
その反面、機能向上による価値向上は、不確実で測定しにくい。
評価されなければ、人は行動を変えることはまれである。
人事評価も“機能向上による価値向上”への転換を阻止している。
生産現場にVE/VAのノルマを課すことによって、この傾向を助長し、企業利益にマイナスの影響を与えている。
VA/VEでは、機能に対する原価の適合性を比率でとらえ、これを価値比率と呼び、これを用いて価値の妥当性を判断するのである。
価値分析というのは価値比率を計算し、価値比率の低いものを改善してより高い価値比率のものにつくり変えることと言える。
価値(V)=機能(F)/原価(C)
「製品とは機能を果たすために考え出された仮の姿」だと考えねばならない。
言い換えると、VEでは製品は機能を達成させるかりそめの姿であると考える。
もっとよく検討してみるとより良い姿が別にあるだろうという信念に立っている。
価値を高めるには次の算式で示したように機能と原価の関係を、改善していなければならない。
- コストダウンによる価値向上
価値(↑)=機能(→)/原価(↓)
従来と同じ機能のものをより安い原価で作り出す場合である。
コストダウンと同じ効果になる。
このケースのVEが最も多い。
気を付けなければならないのは、人の認識にはしきい値があることである。
実際には機能が僅かながら低下しているのだが、人はこれを認識できず、同じ機能を持っていると認識してしまう。
これがVEは品質低下活動といわれるゆえんである。
これを繰り返すと、競合他社から一気にしきい値を超える機能向上を行われることもある。
- 機能向上による価値向上
価値(↑)=機能(↑)/原価(→)
従来と同じ原価でより機能の高いものを作り出す場合で、機能改善という。
これからの日本で最も必要とされている機能である。
残念ながら日本ではVEは生産部門を中心におこなわれており、消費者が機能改善をどのように評価してくれる全くわからない。
そのため、このタイプのVEは商品企画段階を中心に考えられるが、VEとしては行われない。
- 原価の増加以上に機能が向上することによる価値向上
価値(↑)=機能(↑↑)/原価(↑)
原価が少々高くなるがそれ以上に機能が改善する場合で、多少のコストアップを伴う機能改善である。
2の場合と同様に商品企画段階で考えられるのみである。
- コストダウンと機能向上による価値向上
価値(↑)=機能(↑)/原価(↓)
コストダウンと機能改善が同時に行われるもので、最も望ましいものである。
このケースは新技術を採用した製品に多く見られる。
なお、機能は少々下がるが原価が大幅に低減できれば価値が向上するとの考えがある。
しかし、これはVEでは取り上げない考え方である。
VEの考えでは、製品は所与の機能を維持している維持している。
必要な機能下げるとなると、もはや従来の製品ではなく、別の製品になるのである。
VEはその製品の価値向上を狙うのであり、機能を引き下げて別の製品を作り上げることではない。
仮に、そうすることによって大幅なコストダウンが期待できても、それはVEをしたとは言わない。
しかし、機能は少々下がるが原価が大幅に低減する方法は、VEではないが、戦略としては有効なことも多い。
よく使用される戦略は、量産効果による大幅なコストダウンを実現させて、一挙に競争優位を獲得してしまう戦略である。
特に、低ラインの製品に対して、この戦略を行うと成功しやすい。
VEを導入する前には、量産効果によるコストダウンとの戦略の適合性を考えなければならない。
最近のVE/VAの問題点は生産プロセスしか見ず、お客様から見た価値を損なってしまうことである。
これを防止策として、カルロス・ゴーン氏が進めているバリューアップ運動が良いであろう。
特に工場では、顧客の視点が欠如して価値低下活動になりがちなのを、顧客の視点を入れることで防止している。
VE/VA活動は耐久消費財に対する活動としては、成功しているとは言いがたい面がある。
自動車や家電製品等の工業製品のほとんどは耐久商品である。
耐久商品は、商品そのものの価格よりも、商品価格を耐用年数で割った実質的なコストが優先される。
かつては技術進歩が急であり、技術的な面で陳腐化がされ、商品の耐久年数がくる前に買い換えられていた商品も少なくなかった。
しかし、現在は製品が成熟されて、良い商品を長く使う傾向がはっきりと現れてきた。
これに対して、VE/VAの手法は、販売価格を下げることに使われ、耐用年数を延ばすことによる実質的なコスト削減に対応できていないように感じる。
なお、最近のVE/VAの定番の例としては、、
- 鍛造・鋳造部品で機械加工を行なうものを、プレス加工し、機械加工の工程を省く。
- 鉄板をプラスチックに変える等の原材料を変更する。
- 鍛造・鋳造部品を精密加工を行なうことで、機械加工の工程をなくしたり、減らしたりする(ネットシェープ)。
- プレス加工やプラスチック成形で一体加工を行ない、溶接、ボルト締め等を減らす。
- マスカスタマイゼーション等の標準部品の使用する。
つまり、機種によって「変わらない機能」と「変化する機能」に分け、「変わらない機能」は量産効果によるコスト低減を求め、「変わる機能」は多様性のコスト上昇を回避させる。
- モジュール化
等がある。言い方を変えれば、おざなりのVEでもある。
VE/VAの歴史は、1947年アメリカの大手電機メーカーであるゼネラル・エレクトリック(GE)社では、電機製品にペンキを塗るためオーバーヘッド・コンベアーが使われていた。
これを使って塗装作業をするとどうしてもペンキが床に垂れて付着してしまう。
もし、これに火でもつくと火災になってしまうから、床カバーにアスベスト材(石綿)が使われていた。
ある時、塗装職場の拡大や補修のため、各作業現場から相当量のアスベスト材を調達してほしいという要求が購買かに出された。
戦勝国のアメリカといえども、第二次世界大戦直後のことで、アスベストが品薄でなかなか手に入らない。
手に入れようとすればかなり割高な出費をしなければならない。
それでも購買担当者は不燃材の専門メーカーを廻ってアスベストを入手することに精を出していた。
ところがある日、不燃材の専用メーカーから、
『GEさん、おたくで探しておられるアスベストですが、一体何のために使っておられるのですか』
という質問が出された。
GEの購買担当者が『実は……』と、既に述べたようにアスベストの使用目的を説明すると、『なるほどネ……』と、しばらく考えた末に、
『実はアスベストは非常に品薄で手に入らないのですが、それに代わる良い不燃材があります。これを使ってみてはどうですか』
といっていくつかの代替材を見せてくれた。
この中には不燃材でアスベストより強く、価格はかなり安いものがあった。
購買担当者は今まで知らなかった不燃材を発見し、さっそくこれを買付けようとしたのだが、残念なことに会社の安全規則にアスベスト材を使用することが決められており、この新素材を使用することができない。
そこで購買課長をしていたマイルズ(L.D.Miles)は本社の幹部にこの事実を報告し、その不燃材をとりよせて試験を行い、安全性を証明してみせた。
ついに安全規則が改定され、この不燃材の使用が認められたというのである。
この出来事を聞いた副社長のウイン(H.A.Winne)はこれと似たようなケースが社内にはいくらでもあるだろうと考え、このような研究を推進するような研究を推進するようマイルズに命じた。
そして、自らこの研究のことを価値分析(VA:Value Analysis)と名づけた。
1952年に海軍船舶局がGE社のVAに興味を示し、GE社に調査団を派遣し、船舶局においてVEが適用できるかどうかを調査研究し始めた。
その結果、VAの成果が十分上げられると判断し、1954年に正式にこれを導入した。
そしてこれをVE(Value Engineering)と名づけ、VEを推進する課を新設した。
VEは歴史的背景もあって、まず購買分析として購買部門に紹介された。
その後、既存製品を対象として行われ、次に開発部門で適用され、最後には製品企画段階やサービスに適用された。
購買部門や製品ができた後で行なうVEはセカンド・ルック・VEと呼び、設計時におけるVEをファースト・ルック・VEと呼び、製品企画段階やサービスにおけるVEをゼロ・ルック・VEと呼んでいる。
VAとVEは同じものであるにもかかわらず、ファースト・ルックVEをVE、セカンド・ルックVEをVAと呼ぶことが多い。
セカンド・ルックVEでは生産設備や金型等が完成していて、それら設備のために効率的なVEは行うことができない。
セカンド・ルック・VEは上記1のケースである機能を変えず、コストを下げるVEを中心に行われている。
更に、美的価値を含んだハイタッチの部分に適用することができず、ブラックボックスの部分に限定されることになる。
そのため設計時のファースト・ルック・VEや商品企画時のゼロ・ルック・VEの方が、セカンド・ルック・VEより効果が大きく、VEの重点が移っている。
「車両の原価というものは、もともとその車が企画され設計される段階で、大勢は決まってしまうものである。
しかも、製造設備が量産時代に対応して専用化、大規模化しているため、いったん本格生産に入ると、あまり大きな原価改善は期待できなくなる。
そこで打開策の1つとして、1959年末に試作段階にあったパプリカに『1000ドルカー』という目標販売価格を設定し、企画設計段階で初めて原価検討を試みた。
結果は良好で、パブリカは大衆車でありながら軽自動車並みの価格を実現することができた。
このように企画設計段階で目標内に原価を納めることは、その後、いわゆるVE(Value Engineering:価値工学)として定着し、新車の開発やモデルチェンジを行なうときに、定常的に実施するようになった。
同時に、設計、試作、生産準備などの各段階で、関係部署がお互いに協力して目標原価の達成に努めたという、いわゆる『原価企画』の体制を整備していくのである。(150ページ『トヨタ経営システムの研究』)
上記2のコストを一定で機能を上げるVEは少なく、上記3の機能は大幅に上昇するがコストも上がってしまうというケースが多いと見られる。
しかし、製品開発を行う時は目標とする売価は商品企画時に決っており、なんらかのコストダウンを伴わなければ実施できないVEである。
上記3のVEはゼロ・ルック・VEで製品のコンセプトが決る前で、消費者がVEでの機能上昇を価値の上昇と認めてくれるかの判断も必要である。
ケース4の機能が向上しコストも下がるというVEは、新素材や新技術を伴っていなければ実施することが難しいVEである。
一般に、設計段階のファースト・ルック・VEで実施することの多いVEである。
VEとは
「最低のライフ・サイクルコストで必要な機能を確実に達成するために、製品とかサービスの機能的研究に注ぐ組織的な努力である」
と定義されている。
ライフサイクルコストとは、下記がある。
- 開発・設計コスト
- 購買・製造コスト
- 販売・管理コスト
- 使用廃棄コスト
特に注意しなければならないのは、使用廃棄コストです。
VE/VAの効果は、ファースト・ルック・VEやゼロ・ルック・VEの方が効果が大きい。
ところがVE/VAは技法としての発達の経緯から、現在でもセカンド・ルック・VEを中心に行われていることは残念なことである。
ただでさえ、セカンド・ルック・VEは『落ち穂拾い』と言われるように、その効果は限定されたものである。
クルマの特性として、美的価値に含まれる見栄えや騒音対策が行なわれている。
工場で行なわれているセカンド・ルック・VEは、消費者が重視しないだろうと思われる見栄えや騒音対策に対して行なわれる。
それゆえに、品質低下運動と揶揄され、品質低下を招くこともある。
ひと昔前には、同じ部品をよりやすく買うということも行なわれた。
VE本来の機能に対したものでなく、消費者と最も離れた工場の人たちが美的価値に対して原価低減をするリスクは大きい。
大勢の人が関わりながら、3本あるボルトを2本にする等の1円2円を低減するようなアイデアしか出てこざるを得ないのである。
なお、トヨタでは、生産開始後に設計部門が部品スペックを変更して実施するVAは効率が悪いので、製造方法の変更によるVAを工場主体で行ない、設計部門は新製品開発段階のVEに注力するのが通常になっている。
過去に設計部門がVAを実施したのは、1970年代の石油危機のときと1990年代初めのバブル崩壊のときだけである。
どの企業においても、新製品はコスト目標未達で生産に入ることが多い。
未達であれば、未達をした設計者に対して懲罰的な意味も込めて、設計が完了した生産後であってもそれをリカバリー(VAのための設計変更)させたくなる。
だが、設計者は最大の努力をした上での目標未達である。それを懲罰的にリカバリーさせると、設計者のモチベーションダウンが著しい。
設計者に効率の悪い生産後のVAなどをさせずに、同じ時間を効率のよい新製品のVEに振り向けさせるほうが賢い。
未達で生産に入るのはトヨタでも同じであると聞くが、トヨタでは生産後のVAを設計者に課していない。
このように、トータルとしての考え方に立てるかとうかが、企業における原価の好循環と悪循環の分かれ目になるのである。(161〜162ページ『トヨタ経営システムの研究』)
トヨタ自動車では、試作後のVA活動を以下のように決め、部品点数が増えないこと、つまり量産効果が維持されることを注意している。
- 標準部品の使用
- ボルト・ナットなどの要素部品は、「標準部品登録制度」によって、形状、寸法、一ヵ月使用実績が一覧表として設計者全員に配布されている。
同種の部品は、管理責任者の許可がなければ新設することはできない。
- 部品・工程の共通化
- トヨタでは、一般部品の部品番号10桁の上5桁が部品の機能単位で標準化されているので、同種の部品図面は容易に参照できるようにしてある。
新製品の設計にあたっては、同一部品の使用、または同一工程が組めるように設計しやすいようにしてある。
- 不具合などで従来の部品と異なる部品を設計せざるを得ない場合は、部品を単独で設計せずに、ほかの車種に使用している従来部品も一緒に変更するようにしている。(158〜159ページ『トヨタ経営システムの研究』)
1985年ごろ、ダイハツの幹部がこぼしていた。
「トヨタは1機種のエンジンで不具合が発生すると、その機種で徹底的に対策案を検討し、改善する(フォーローアップ)。
ここまではダイハツでもやる。この対策品を別の機種につける。
現状より改善されるか、悪くなるか、そのままか、を全機種で検証する。
もし悪くならないのなら設計変更して全機種に対策品を取りつけ、量産するルールとなっている(ヨコテン)。
その利点としてトヨタは、@お客様に対してイメージアップ(アピール)することができる、A共通部品を大量生産することによって逆にコストダウンできる、Bサービス工場の対応が楽になる、の3点をあげている。
ダイハツとしても、考え方はよいと思うのだが、なかなかついていけず、困っている」(105〜106ページ『トヨタ経営システムの研究』)
VEの進め方
VEにはまず生産されている製品のコスト低減を目指す、セカンド・ルックVEがある。
下記等のVEの説明には、セカンド・ルックVEを前提にVEの進め方を説明してある。
右肩上りの成長を続けていた生産指向の時代には、セカンド・ルックVEはまだ有効であった。
しかし、経済が成熟し、製造に伴う初期費用の増加により、ファースト・ルックVEやゼロ・ルックVEに主役が移った。
結果として、トヨタのように設計に重点を置くようになった。
そもそも日本のモノづくりの強さは、ファースト・ルックVEにあったと考えられる。
具体的には、欧米の製品を見て、消費者の要望を入れて改良し、その結果品質を上げ、コストを下げたのである。
1980年代の米国を中心として行なわれた自動車産業研究は、アメリカの立場で行なわれたため、違いの大きかった現場作業者に焦点が当たった。
このことが不運であった。
生産現場でボトルアップの名のもとに、勝手バラバラに部品レベルでVAを行なってしまった。
計算上では部品単価は下がって利益は出るのだが、部品点数が増え関連の管理費がそれより多くなって利益を食いつぶしてしまった。
しかし本当は、日本は多品種少量生産を得意とするマーケッティング大国であったのである。
そこでの核となる技術は、コア・マスカタマイゼーションであり、全体を見渡す視点が必要である。
生産部門が得意とするボトムアップの技術は何の役にもたたない。
特に、日本製品が世界の一線に立った時から、欧米の製品を改良するのは、不公正と言われるようになってきた。
そのため、消費者の嗜好に基づいた、個性的で独自の製品開発を行なわなければならなくなった。
商品郡全体を見る視点が重要になり、ファースト・ルックVEから、ゼロ・ルックVEに主流が移った。
前述したように、VE/VAの中で最も効果があるのは、設計時のファースト・ルック・VEや、企画時のゼロ・ルック・VEである。
これは製品のライフサイクルの短縮に対応したものである。
クルマのフルモデルチェンジ期間は4年で変わっていない。
しかし、ライフサイクル初期の販売が増え続け、ライフサイクル後期の販売は減っている。
そのため、利益を上げるために、発売時にVEを終えておく必要があり、品質もコストも垂直立ち上げが重要となっている。
VEの中心テーマが、設計のスリム化やシームレス化に移り、1つの部品で2つ、3つといった機能を担わせることにある。
工場で行われるVEは、製品そのものでなく、生産方法の改善が主になる。
IEと異なるのは、生産手順だけでなく、治具の改善にも重点が置かれるからである。
それ以上にトヨタがフィットを解体して驚いたのは、設計自体のスリム化とシームレス化だった。
松本に言わせると、1つの部品で2つ、3つといった複数の機能を担わせている。
これが今回のコスト削減の、究極のアイデアでもあったようだ。(38ページ『トヨタとホンダ』)
設計のスリム化とシームレス化は、ボトムアップの改善では実現できない。
クルマ全体として機能を見る目が必要である。
それらの機能は多くの部品に分かれて、ひとつの機能を発揮している。
機能を構成している全部品を見直して、再構成することでしかスリム化やシームレス化は実現できない。
ファースト・ルックVEでは設計図面が貸与図から承認図へと、部品会社のアイデアを多く取り入れるデザイン・インへと変わってきた。
ゼロ・ルックVEでは、製品のコンセプト段階から部品メーカーに入ってもらうコンセプト・インに変わってきた。
工法のムダ、計画のムダ、管理のムダは、ゼロ・ルックVEおよびセカンド・ルックVEでほぼ対応できる問題である。
- 設計仕様のムダ
設計仕様上のムダにより追加されるコストで、これには、過剰な設計仕様、標準化の欠如、等がある。
スリムな設計などが言われている。
- 工法のムダ
設計仕様に対して、工法そのものがあっていないために生じるムダである。
トヨタ自動車では設計担当者が工法について詳しく知ることが義務づけられている。
- 計画のムダ
主に工程設計によって生じるムダである。
トヨタ自動車では同じく設計担当者が生産工程を詳しく知ることが義務づけられている。
- 管理のムダ
管理が悪いために追加されるコストで、不良品や欠品を出すことによって発生する。
セカンド・ルック・VEでの設計仕様のムダの取り方は、下記の方法をとる。
- 対象物の選定
- 機能の定義
- 機能の評価
- 改善案の作成
- 提案とフォローアップ
コスト低減とは、創造的にコスト低減の余地を追求し、それを排除することである。
コストというものは、下がるものではなく、下げるものである。
そのため、コスト低減のあり方は次のとおりです。
- 現象的なコスト低減から技術的なコスト低減へ
- 部分的なコスト低減から総合的なコスト低減へ
- 個人的なコスト低減から組織的なコスト低減へ
- 部門別のコスト低減から全社的なコスト低減へ
VEで重要なのは、まず思いつきの個人主体の改善ではなく、技術的な裏付けを持った組織的な活動である。
思い付きのVEでは、個々の部品を、単に価格の安い部品に置き換えるだけになりがちである。
これでは、直に限界に突き当たってしまう。
VEの醍醐味は、複数の部品で出来上がっているものを、設計の簡素化でコストを削減することである。
まず、個々の部品を機能という混沌としたカオスとして表し、再び新しい部品構成で作り直すということである。
そのためには、複数の人が並列的に一緒に考えるのではなく、直列的につながって考えることが必要である。
『ナレッジ・マネジメント』の発達が、このことを可能にしている。
情報の中で最も重要と思われるのは、原価見積り情報である。
原価見積りは、機能評価によって割高な(改善を要する)個所を明らかにし、ベストな改善案を選択するのに必要な働きをする。
最近では、世界最適調達の影響を受け、中国等での生産コストも必要である。
そのため多くの企業でコスト・テーブル(cost table)が活用されている。
また、ライバル会社の製品を分解して、構成部品を調べるティア・ダウンという手法がある。
これと似た方法でリバース・エンジニアという手法もある。
VE手法の学習のために、ライバル会社の製品を分解して機能とコストを調べることには意味がある。
しかし、ティア・ダウンやリバース・エンジニアでVEのアイデア探し、いわゆる“パクリ”の手段にのみ使用するのは良くない。
これを行なうといつもライバル会社の製品の1世代遅れの製品を開発し、コスト・パフォーマンスも良くない。
なによりも、全くVE手法を使っていないのである。
製品そのものをマネをする方法はVEの手法ではない。
最近では、建設業とか他の業種でもVE手法は使われている。
商品の場合は構成する部品を機能に変換していたが、工程作業をそのものを機能としてみるだけで本質的には変わらない。
でも、商品の場合はなんとなくVAになるが、工程作業の場合には全体を見渡せたせる視点がなければ形にはならない。
VEを推進するには、下記を注意しなくてはならない。
- トップダウンのもとでVE活動を推進すること
- 通常の仕事としてVE活動に取り組ませること
- 継続的にVE活動を推進すること
- VE活動を通じて変化を促進すること
- VE活動に積極的な投資をすること
VEはTOCやISO9000シリーズやISO14000シリーズと同様に、トップダウンで重点主義によるマネジメントシステムが必要になる。
そのために、組織や予算の大括化が必要になるかもしれない。
VE活動に必要な投資は下記である。
- VE教育に対する投資
- VE活動に対する投資
- 代替案の評価や実施に対する投資
- VE活動の評価に対する投資
VEとユニット化について
VEの機能展開を活用していくと、ユニット化のアイデアになっていきます。
現在の製品は、かつての製品と異なり、かなりユニット化が進んでいます。
そのため、設計開発者はVEとユニット化の両方を考えなくてはならなくなっています。
知識を蓄え、かなりの努力をしなくては製品開発はできません。
また、製品開発に期限が設けられています。
そのために、あまり重要でない部分については、妥協せざるを得ません。
工場で行なわれているVAは、かつてのような機能分析は行なっていません。
開発者が開発段階で、時間がなく、重要でもない箇所について、安全性を重視して過剰品質を残しているのです。
工場のVA提案は、このように開発者が妥協した部分に目を付けて行なわれています。
よく狙われるのが、ボルトやネジの数です。
ネジ1本でも、多く生産する製品ならば金額的な効果数字は大きくなります。
工場では、上述したような機能展開等のVAの手法の教育も行なわれませんし、そのような手法も使いません。
開発者がどこを妥協しているかに目をつけるのです。
工場のVAを高く評価することは、開発者の仕事のアラ探しをしていることを評価していることになります。
そのため、工場におけるVAはあまり評価すると、開発者がモラール破壊になります。
工場で行なわれているVAは提案のみであり、その内容は開発部門で試験等を行ない評価し、実施するかどうかを決めます。
それならば、最初から開発センターでVEの遣り残した点を登録しておいて、VA/VEの事務局がフォローする方が良いと思います。
製品が市場に出て、市場からのクレームがなければ、やり残したVEの検討を行なう体制が好ましいと思います。
日本の自動車会社は、フルモデルチェンジからVAによってコスト低減を行なっています。
これに対して、欧州の自動車メーカーは、価値を上げることに主眼を置いています。
次のフルモデルチェンジ前のクルマが、消費者にとって一番価値が高いと言われています。
この違いは、主に基本となる戦略の違いから生じたものと考えられます。
欧米の企業では、クルマのコンセプトを削ぎ落としていき、コンセプトを研ぎ澄ませていくと言われています。
だからコンセプトを修正する意味で、VEによって価値を付け加えていくものと思います。
この方法を採ると、最初のコンセプトが消費者の好みと異なっていれば、全く売れない状況になってしまいます。
それに対して、日本型のモデルでは、コンセプトをand(アンド)で加えていっています。
この場合、複数のコンセプトを持っているので、どれかのコンセプトが顧客の好みに合えばクルマは売れることになります。
しかし、複数のコンセプトを持つため、お客様が必要としない装備も入っていて、割高になっている。
割高で必要性の少ない装備をそぎ落とすVEが主流になっている。
現在のように先進国で低価格志向の流れの中では、受け入れがたいモデルになっている。
ブレークスルー式思考
問題解決のもっとも効果的なアプローチを提供しているのがブレークスルー式思考である。
それは段階的なプロセスではなく、問題とその解決法についての7つの考え方で、次の原則に基づいている。
(1) 独自性の原則
外観上の類似点のいかんにかかわらず、問題はそれぞれユニークなもので、それ自体の文脈からみたニーズについてまず考えるアプローチを必要としている。
(2) 目的の原則
拡大する目的への努力の集中が非本質的な側面をそぎ取り、誤った目的への取り組みを回避するのに役立つ。
(3) 次々回解決策の原則
革新のシミュレーション・モデルをつくり、理想的な目標解決策から逆作業することによって、解決策の効果性を高めることができる。
将来に向けて目標となる解決策を持つことは、短期的な解決策に方向性を与え、またより大きな目標を抱かせるものである。
(4) システムの原則
それぞれの問題はより大きな問題体系の一部であり、一つの問題の解決は必ず別の問題を生む。
解決策がいかなる要素、次元で構成されているか、その枠組みを明らかにしておくならば、その実行可能性と実施は確かなものとなる。
(5) 情報収集限定化の原則
過度のデータ収集は問題領域の専門家を生み出すかもしれないが、そのような領域について知り過ぎると、それは卓越した代替案を発見する上で、恐らく妨げとなるであろう。
情報収集を行うに先立って、常に収集案についての拡大目的を定めておくべきである。
(6) 対人設計の原則
解決策を遂行したり、利用したりする人々については、前記の5原則に関与させることによって、解決策の案出に密接かつ継続的に係わるようにさせるべきである。
また他の人々に対する設計を行うに当っては、解決策を応用しなければならない人々が何分かの弾力性を発揮できるように、解決策に含めるのは重要な細目だけに限るべきである。
(7) 改善時刻表の原則
解決策の活力を保持するには、道は1つしかない。より大きな目的を達成し、目標とする解決策に向かって前進するための継続的改革プログラムを解決策を組み込んで、進行管理を行うことである。
参考文献
- 『VE(価値分析)』(考え方と具体的な進め方) 田中雅康著 マネジメント社 1985年12月2日
- 『おはなしVE』 土屋 裕著 日本規格協会
- 『建設VE入門』 秋山 兼夫著 2001年9月25日 (財)日本規格協会
- 『VEがやさしくわかる本』 小川 政夫著 実業出版社
- 『トヨタ経営システムの研究』(永続的成長の原理) 日野三十四著 2002年6月13日 ダイヤモンド社
- 『トヨタとホンダ』 塚本 潔著 2001年12月20日 光文社新書(016)
参考ホームページ