隠岐の渓

 

7月21日午後、私は島後のとある渓に向かっていた。

隠岐のヤマメの存在は一部の渓流釣り師の間では有名な話である。佐藤成史著の「瀬戸際の渓魚たち」にもその様子が載っている。ただこのレポートが最初に世に出たのは95年の10月であり、情報としては古いことが気に掛かる。なにしろ我が国は雑誌にポイントが掲載されたりすると根こそぎ魚が釣りきられてしまう傾向が多いからだ。

隠岐の河川は規模が小さく、また水も少ない。川の体裁はしているが全く水の流れていない区間があったり、河川工事がかなり頻繁に行われている日本の他の地域と変わりない風景がここにも展開されている。なにしろ最高峰の高さが600m台という低地である。しかも周囲は海で、20km四方しか土地がないのである。しかし結構山が深く河川の数は多い。前出の「瀬戸際の渓魚たち」によればヤマメの放流は住民に河川環境を身近なものに感じてもらうために放流されてものだという。また、40cmを越えるニジマスの存在に言及する記事、尺を越えるヤマメの写真、湧水にはぐくまれた水草のあるプールの写真等、これは確かめてみたいなあと思わせるに十分なレポートであった。

ただ私も隠岐にわざわざ渓流魚を釣るだけに行けるほどまだ達観しておらず、観光やレクリエーションの合間を縫っての釣行である。そのためポイントを絞る必要があった。佐藤氏のレポートと国土地理院の地形図を頼りに2本の河川にアタックすることにした。

最初に入ったポイントは川の源流部である。滝のそばまで道が続いていてそこまで行けば・・・と思ったら、地図に載っていない巨大な堰堤が出現した。出来立てほやほやの白く輝くコンクリートとは裏腹に気分が暗くなってきた。川の流れはちょろちょろで、これでは期待できそうもない。一旦1kmほど下流に降りてそこから入渓した。川幅は約5m。30m毎に小堰堤が設けてあり、相変わらず水量は少なくあまり雰囲気は良くない。外気は30度近い高温で汗が噴き出す。しかし水温は意外と低く16度であった。少し可能性はありそうである。

しばらく川を遡ったが反応がない。シルト質の土が流れの緩い場所には堆積していてあまり状態はよくなさそうだ。高さ1.5mほどの堰堤下に、向かって左手から右へ、大きな岩の向こう側を水が流れる場所にやってきた。1回目、パラシュートにチェイス。しばらく時間を置きもう一度岩の向こうにキャスト。乗った。やや弱いが竿に伝わってくるこの鋭い引きはヤマメのようだ。しかし数秒後ばれてしまった。その後堰堤を越えしばらく遡ってみたが反応なく時間切れ、納竿。


翌22日、今度は宿の近くの小さなダムの上流へ入渓。ダムのインレットから林道沿いに500mほど上流に上がった場所に車を止め川の様子を見た。傾斜の緩いゴルジュ帯で水の流れもあまりないが、入渓してみた。カワニナ、サワガニ、淡水生のハゼの仲間は沢山見えた。が、本命らしき魚影、反応もまったくないまま時間ばかり過ぎて行く。一端川から上がりダムのインレットまで降りてみた。そこには水はなくダムから100m以上枯れ川が続いていた。これでは可能性は薄そうである。水のある場所まで再び遡り、痩せ細ったウグイを3匹釣って隠岐の調査は終了した。

結局2河川でしか竿を出せなかったのでなんとも言えないが、まったく駄目というわけでもなく多少は可能性があるようだ。もう一度行くことが有れば別の河川を調査してみたい。だが全般的に言って島後の河川はあまりにも渓流魚の生育環境としては小さすぎる気がする。藪沢が嫌いな人にはお勧めできない。隠岐の渓流魚達には、私が再び訪れるまでは頑張って生き残っていて欲しい。

蛇足 その後別の川に移動しオキサンショウウオの幼生を沢山観察した。アシゴズ(足のあるハゼ)と呼ばれる理由がよく分かった。