前略 B君ご無沙汰。元気にしてるか?こっちはまだ梅雨が明けない。相変わらずこっちは釣りに行ってるよ。この前の日曜日の話をしよう。
ちょっと遅く目が覚めたので岡山を発つときには既に夜が明けて明るくなってしまった。天候は曇り。前線が南下したせいで、涼しい朝だった。
国道53線の建部町付近で旭川の様子が右手に見えたんだけど、土曜日の大雨のせいだろう、増水と濁りがまだ取れていないみたいだった。先行きにちょっと不安を感じたなあ。あとでこのやな予感が的中するんだけど(笑)。
時間ははっきり覚えていないんだけど、多分午前7時30分頃のことだと思うんだ。K村の手前にO温泉があるよね。例のH川方向に曲がらずにまっすぐ行ったところだよ。あの辺りは最近ダム工事の関連で道路を大改修していて随分走りやすくなってるんだ。ちょうどその広くて走りやすくなった道を気持ちよく走っていたとき、一羽のスズメが道路に落ちていた餌を銜えて車の前を横切ろうと飛び出してきたんだ。「高度が低すぎる。危ない。」と思ってブレーキを踏んだんだけど、間に合わなかった。どうやらバンパーの下に当たってしまったみたいだ。バックミラーに地面に横たわる可哀相なスズメが確認できた。君にだけは正直に告白するが、後続車も来ていたし、先を急いでいたので引き返さなかったんだ。このあたりは車の往来の多い場所なので例え気絶していたとしてももう助からないだろう。後味が悪かったなあ。
今はそうでもないけど、水生昆虫が沢山ハッチする季節は車の前面に虫の死骸が多量にこびり付くよね。できれば避けたいのだがそうも行かない。車社会の恩恵に授かるということは、こういった虫や動物の「死」と引き替えの部分が必ずあるよね。教条的環境保護論者は車に乗れないな。君ならどう思う?殺生を禁じた宗教の信者はどうなんだろうか。そもそもそんな人は釣りなんてしないよな。そんなことを考えながら車を走らせた。(こんな風にすぐに一般論を持ち出すから多分男は嫌われるんだ。例の子に後でことの顛末を話したら、案の定『どうして助けなかったの』と叱られてしまった。)
なんだ魚はいるじゃないかと簡単に思ったのだが、そんなに甘くなかった。結局11時頃まで粘ったんだけど1匹も釣れなかった。何回かフライには出てくれるんだけど、ボクの未熟な腕では無理だった。諦めてS川へ移動した。
T峠を越えると天気もちょっと持ち直して曇り時々晴れという感じ。まずはダムの上流から入渓してみたんだ。入渓して直ぐの瀬でパラシュートに20cmのイワナが1匹でてきた。そういえばこの川でイワナを釣るのは初めてだったんだ。
参考のためにストマック(胃の内容物)を採取してみる。ずるっという鈍い音と共にストマックポンプに内容物がたっぷり入ってきた。なんか緑色がかった茶色のどろどろがパイプの中に見える。草でも食べてるのかと第一印象で思った。皿に広がったポンプの中身を見てボクは目が点になってしまった。
皿の中にはヒルが2匹。アマガエルが1匹。蟻1匹。緑色の蜘蛛1匹。ごくごく小さなメイフライのニンフが1匹。ヨコエビのようなよくわからない生物が1匹。あとは消化が進みわからないどろどろ。緑色がかって見えたのはアマガエルと蜘蛛のせいみたいだ。確かに水生昆虫はほとんどいないのだが、テレストリアルって感じでもない。こうゆうのはなんと言えばいいのかな。ヒルやヨコエビがいるというのはあまり水が綺麗じゃないということの証明でもあり、なんだかS川のイワナが可哀想になってきた。
でもよく考えたら釣り師とはまったく勝手なヤツだ。その魚がせっかく食べた餌を強引に横取りしておきながら、食べている餌が可哀想だと思ったりする。魚にしてみれば余計なお世話だと思うな。君もそう思うだろう。
ここは相変わらず水が汚いんだ。というかダムからの放水の水温が高いんだろうね、川底がヌルヌルしていてLLビーンで買ったアクアステルスソールでは滑りやすい。あのソールは源流向きだね。石に苔が多いところではちょっとお勧めできない。
滑る足下に注意しながら100mほど川を上がって行くと、とうとう雨が降ってきた。合羽を着込んで釣り上がる。合羽ってやだね。夏はやっぱり暑くて。23cmと17cmのアマゴをパラシュートで釣り上げたところで堰堤まで来てしまった。大きい方のアマゴはかなり元気がよく、ファイトを楽しんだよ。この川は次回はもっと下流から入ってじっくり釣るともっと釣れそうな気がする。ライズしている場所も発見したし(釣れたとは言わない)。今日は何故かウレタンのアントではさっぱり反応が無く、パラシュートに換えて同じところをトレースすると反応が有ったりした。やっぱり毛鉤によって反応が違うんだね。
ふと気が付くと腕時計の文字盤が濡れている。拭いても取れない。よく見ると内部に浸水している。水滴が内側から付いている。これはスズメの呪いか。それともストマックを奪われたイワナの恨みだろうか。どうやらパッキンの寿命が尽きていたみたい。(後日修理を依頼したら8000円も修理費を取られちゃったよ。憂鬱になる。)
帰り道にも実はもう一波乱あった。国道53号線へ素直に戻るのが面倒なのでそのまま29号線を姫路方面に車を走らせた。波賀付近から429号線に入って帰ろうという魂胆だった。しかし、このルートの選択は間違いだった。暗くて狭い隘路が延々続き、やっと岡山県に抜けたと思った時点で、すでに出発してから1時間半も経過していたんだ。しかも抜けた先はまだ東粟倉村なのだ。冗談抜きで涙が出そうになったよ。これもなにか行いが悪かったせいだろう。ここで腹が減ってさあなんて書いたら、話が出来過ぎなので書かない。
追伸 因果応報っぽい話は民話だけじゃなくて釣り人の馬鹿話にも多いよな。まさに今回はそうだ。君は確か柳田国男やレヴィ・ストロース詳しかったよね。今度簡単に教えてくれ。